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[コメント] チート(1915/米)

59分版を見る。早川雪洲のキャラ造型以外にほとんど見どころのない作品に思える。一応、私が感じた画面の特徴について記すと、まずは、多分、全編全ショットに亘って人物が映っている、ということが上げられる。
ゑぎ

 建物の外観とか、静物の空ショットなんかは全くない。冒頭、早川が小さな焼印を美術品に押し付けたあと、印影を見せるアップがあるが、これにも彼の指が映り込んでいる。人物が全てのショットに映っているということは、すなわち、トントンと効率的にプロットを運ぶ、ということに繋がっているだろう。さらに、ツーショットがほとんどで(勿論、一人のショットやモブシーンもあるが)、これも一部の例外を除いて、ほゞ全てのショットで人物たちは横並びに配置されており、皆カメラ側を向いて、その表情を見せている。その際、時おり、カメラ目線に近い観客の共感性を促すような(チャップリンみたいな)演出がある。基本的に人物を背中側から映すことはないということだが、一部の例外は、ヒロイン−ファニー・ウォードの左肩に押し付けられた焼印の痕を見せるショットか。ただし、こゝも振り返った彼女の顔が映っている。

 また、少ない人物一人のショットの中で、切り返しっぽい繋ぎが一箇所だけある。終盤の裁判シーケンスの早川への尋問シーンで、アップの早川とウォードを繋ぐ部分だが、確かに2人の位置は正対しているし、視線の交錯も描かれているだろう。しかし、続くウォードの夫の尋問場面でも、横並びに座った早川とウォードのアップを繋いでいる。ウォードの夫のアップはない。これを見ると、先の切り返しっぽいアップの連打も、単に主役2人の表情をアップで抜きたかっただけではないかという気がしてくるのだ。あと、基本、固定ショットばかりの映画だが、公判冒頭で陪審員席を左から右へパンニングするショットがある。それと、日本的な障子戸を使った影の演出や、監獄で鉄格子の影が落ちるショットといった表現主義的な画面造型、あるいは、早川の部屋の骨董品(仏像や甲冑など)を映した画面も目に留まる。

 上で最初に早川のキャラ造型だけいいみたいに書いたが、それは彼以外のヒロイン‐ウォードも彼女の夫もなんともサイレントらしい大仰な演技ばかりディレクションされているというところに多く拠っている。特に評決を聞いたウォードが取り乱して騒ぎ出す演出は白々しい。ただし、この後、傍聴席の人々も騒ぎ出して大混乱になるモブシーンはちょっと驚かされる。それは、純粋に画面造型に驚くということもあるげれど、作り手の意識がどうあれ、白人対アジア人という関係があるからこそ、この展開が納得性を持つという前提を感じてしまい、呆然となる。

(評価:★3)

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