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[コメント] 罠(1939/仏)

仏時代のロバート・シオドマクによる犯罪映画で、ダグラス・サーク誘拐魔』(1947)のリメイク元。私は『誘拐魔』の方を先に見てしまっており、ちょっと時系列的には逆になるが、リメイク版との比較を交えて感想を書きます。
ゑぎ

 まず、クレジットバックは、舗道や建物の壁にスポットライトが当たり、文字が映し出される、という『誘拐魔』と同じ感じで始まるのだが、途中で上から下へ文字が流れ、最後の方は、動かない文字になる、という、とてもお洒落なデザインだ。この時代としたら、相当凝ったクレジットと云えると思う。さて、お話が始まると、全般にリメイク版に比べて、あっさりした演出だと思った。ヒロイン−マリー・デアが登場するダンスホールのシーンも、この後被害者になる友人との会話シーンのみ。ただし、デアが警視庁に雇われるクダリは、ほとんど同じで、デアが脚を見せるところから始まる。この場面は、マリー・デアも、ルシル・ボールに負けず劣らず魅力的だと思う。彼女の守護者の登場は、犯人と間違わせる見せ方をするが、非常に特徴のあるルックス(若い時のヒッチコックみたい)で、尾行に適さない守護者だな、と思いながら見る。

 また、『誘拐魔』でボリス・カーロフがやった役は、本作ではエリッヒ・フォン・シュトロハイムが演じるという豪華版。ただし、狂気の度合いはこちらの方が上をいき、コメディ要素は一切ないのだ。そして、ヒロインの相手役、モーリス・シュヴァリエは、コンサート会場で、いきなり登場する。ジョージ・サンダースは、コンサート会場の前段のシーンでルシル・ボールと知り合うが、本作のシュヴァリエの登場は、これはこれで、簡潔で良いと思う。尚、シュバリエは、劇中、唐突なミュージカル場面が与えられており、2曲唄うのだ。

 あと、デアが小間使いとして囮捜査をするシーケンスでは、執事を籠絡するシーンを丁寧に見せる。ベッドルームに入れ、目の前で服を着替え、執事をベッドに座らせる、なんて演出があり、危ないなぁと思いながら見たが、このあたりはフランス映画らしさ(ハリウッドではできない演出)とも云えるだろう。

 シュバリエとデアの、ビンタの応酬の場面があり、次のカットで、警視の驚いた顔を繋ぎ、二人が婚約した、と云うような、とてもコギミ良い演出もあるが、全般に、会話シーンのテンポが遅く、その都度スピードダウンする感覚も持つ。終盤の真犯人による、マリー・デアに対する暴力描写もスリルがイマイチ。しかし、私が一番残念だったのは、守護者の扱いだ。いいところで再登場するのだろうと期待しながら見ていたのだ。本作も単体で見ると、面白い映画だと思うが、娯楽演出という部分で、リメイク作『誘拐魔』がとても上手く改変していたことが、ようく分かった。サークの力量に感じ入る結果となった。

(評価:★3)

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