[コメント] 下町(1957/日)
千葉泰樹によるナルセ世界、しっとりした佳作。ナルセ好き必見。綿密に比較すれば独自のものが浮上するだろう。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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もちろん林芙美子だし、河岸、水溜り、窓の外を吹く風と雨、映画が濡れそぼっている。チンドン屋を登場させるに至ってはもう意図的だろう。カット割りは違う。特に、主要人物をアップで提示するタイミングは、観客への判りやすさを旨とする職人の方法だろう。
物語は三船敏郎を突然に死なせてしまう訳だが、これが短尺ゆえのお泪頂戴ではなく、山田五十鈴の運命、懲罰だという響きを伴っているのが素晴らしい。シベリア抑留の夫を持つ五十鈴が、シベリア抑留体験者で戻ったら妻に逃げられていた三船と関係を持つ。意図を超えた象徴界のロジックが感じられ、全くヤルセナイ。
原作既読。村田知英子の売春宿に五十鈴が転がり込む設定は、いかにも林芙美子らしいが、ここは全て映画の創作。さらにラストも省略されてある(原作では主人公は妊娠していたらどうしようと悩むのだが、映画はこれをどうでもいいと捨てている)。上手いものだ。ただ、多々良純の色仕掛けが中途半端に終わるのは弱い。全てに投げやりな善人淡路恵子が印象に残る。
原作には面白いことに「山田五十鈴」が登場する(三船のベッドの脇に絵葉書が留めてある)。「異国の丘」を子供が歌うシーンがあるが、主人公はこの歌を子供に教えて貰っている。三船が云い寄る件の「女はみンなだらしがないつてわけでもねえンだな」なる科白が凄いし、猫の死体も凄い。林芙美子は怖い。怖さが隠し味のいい映画だった。
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