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[コメント] 峠を渡る若い風(1961/日)

千葉県、佐原駅のシーンから始まる。清水まゆみ達の一団が駅から出て来る。彼女らは、奇術団と云うことだが、芸人たちで、地方回りをしている。また、彼女らとは別に、和田浩治がやって来る。
ゑぎ

 和田は学生だが、ワケあって、お祭りで、女性下着を売ろうと考えている。清水たちも和田も、祭りのために佐原へ来た、ということだ。奇術団は、座長が清水の父親で森川信。母親は初井言栄。妹が刈屋ヒデ子。その他に藤村有弘杉狂児なんかがいる。あと、奇術だけでは客が呼べないので、お色気要員として、ストリッパーの星ナオミが加わっている。

 祭りの夜、和田は本職のテキヤの横で商売を始めるが、藤岡重慶青木富夫がテキヤ役で登場する。藤岡が出て来ると、和田に難癖をつける悪役かと早合点したが、本作では気のいい男の役だ。青木はコメディリリーフで、これもよく目立つ良い役で嬉しくなる。

 さて、本作の前半の演出の特徴として、途中まで見せて別シーンへ繋ぐ、という隠す演出の頻出を指摘することができるだろう。例えば、祭りで和田が広げた品物は(上で女性下着とネタバレしたが)、何か見せずに、別シーンに繋ぐ、といったことだ。同じような演出として、指相撲の勝敗結果、森川の縄抜けの練習の成否なんかもそうだ。こういった細かい演出の工夫で、とても面白く繋いでいると思う。

 また、佐原のシーンでは、川の側の旅館のショット、夜の川べりでの、和田と清水の会話シーンがいい。二人だけでなく、清水の妹の刈屋の出入りも、画面に変化をつける。本作の清水は綺麗に撮れているし、妹の刈屋も可愛い。あるいは、祭りが終わった後の、川舟での別れのシーンもいい。舟上の芸人たちが、土手の和田に手を振る正面カット。こゝで正面カットを持って来る、というのがセンスだと思う。雄大な川幅は利根川か。

 あと、本作の特筆すべき配役として金子信雄を上げておかなくてはならない。左頬に傷のある、テキヤというよりはヤクザ者だが、抜群に口上が上手い、という設定で、和田の商売を手伝ってくれる二枚目役なのだ。その実、奇術団のピエロの杉狂児をつけ狙う殺し屋、という役でもある。

 他にも、会津若松の興行師の二本柳寛がいる。後半の興行シーンへプロットを進める上で重要な役柄だ。さすがに貫禄がある。息子の嫁に清水を、という条件を提示し、知的障害者の息子を登場させる、という際どい場面も導く(今ならアウトでしょうね)。

 そして、後半の会津での興行シーンでは、ロングショットのワンカット内で、ちゃんと人を消すマジックを見せる、という気合いの入った演出を披露し、私はたいへん感動した。このような映画の奇術シーンって、カットを変えて何でもありだろうと思うじゃないですか。

 終盤では、悪役の近藤宏率いるヤクザたちとの乱闘シーンの見せ場があるが、こゝで、『けんかえれじい』のようなドリー移動のシーケンスショットを見せていれば最高だったのだが。いいフルショットがあるし、横移動のレールが引けそうな場所なのに惜しい。まだ、清順演出もそこまでは、成熟していないのだ。

(評価:★4)

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