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[コメント] 夜の流れ(1960/日)

監督が二人クレジットされていて、その分担が気になるけれど、よくある体調不良などでの途中交代といったことではなく、プリプロダクション段階でスクリプトのシーン(シーケンス)単位に分担を決める、というような珍しいかたちで製作されたようだ。
ゑぎ

 ウィキペディアでは「セットでの撮影は成瀬、ロケでの撮影は川島」と記載されているが、そんな簡単なことでも無さそうに見える。本作の全体を概観すると、大きな二つのプロットがあると思う。一つは、料亭(待合)の女将−山田五十鈴を中心とする、娘−司葉子と板さん−三橋達也とのプロットで、これが本筋。もう一つは、芸者−草笛光子を中心とする元夫−北村和夫と草笛の新たな恋人とのプロット。こゝに、芸者仲間の水谷良重と、水谷がご執心の呉服屋−宝田明のキャラが大きく食い込むが、他の芸者たち、星由里子横山道代北川町子はほとんど賑やかしだ。彼女らに比べれば、市原悦子は癖が強く目立っている。そして、冒頭、プリンスホテルのダイヤモンドプールで、司葉子と並んで登場した、その友人−白川由美は一人だけ独立した位置づけ(山田のパトロン−志村喬の娘)だが、結局あまり目立たないで終わったように思う。

 このプロット構成の分類で云うと、山田を中心とする本筋の部分は成瀬の分担で、大雑把に云えば、その他の部分は川島の演出部分じゃないだろうか。なので、ロケ撮影でもラスト近く、司が三橋のアパートを出て歩くシーン(後景に築地本願寺が映っている)や、ラストシーンの司と三益愛子が道を歩くショットは完全に成瀬の演出だろう、あるいは、セット撮影でも、ナイトクラブでの、水谷と宝田、司と草笛らも含めた、スピード感のあるダンス演出は川島に違いない。また、川島も、成瀬の得意技、視線で相手の動線を示す演出なんかを取り入れて、成瀬の画面と調和するように意識しているのだと思う。

 さて、こういった監督の担当シーンの推測は楽しいが、あくまでも憶測に過ぎない。いずれにしても、見事な場面が横溢している映画なので、少し、特記したい部分をあげておこう。まずは、第一に、山田と三橋の逢瀬の場面をピックアップすべきだろう。中盤まで隠されている関係なので、ネタバレに近いが、これを書かずに何を書く、というぐらいの場面だ(ネット上の多くのコメントで、母娘が一人の男性を好きになる、という梗概は記載されているので、許される範囲と考える)。あとは、草笛のキスシーンも、こゝまで濃密なのはなかなか無いんじゃないか(こゝもセット撮影だが川島だろう)。

 あと、本筋にはほとんど絡まないが、水谷のぶっとんだ酔っぱらい演技も素晴らしい。彼女が傍系だが魅力的な場面をいくつも作っているのだ。お座敷で再軍備は反対の反対(つまり賛成)と云う場面(こゝで、ロッキード一機の値段や、軍人恩給の総額についての会話も出る)は書いておくべきだと思うし、不良大学生たちとの顛末も、留飲が下がるところまではいかないが、本作を豊かにしていることは間違いないと思うのだ。

 そして、本筋の三人の帰結については、ちょっと性急な気もするが、決然たる態度は映画として良い点だと思う。終盤になって登場する越路吹雪のキツい性格付けもいいし、何よりも、ラストが司葉子のバストショットで締められる、また、迷いのない表情をしている、というのがいい。

#備忘でその他の配役等を記述します。

・志村喬の秘書は中丸忠雄。司の見合い相手だった(見合いシーンはなし)。

・白川の叔母で長岡輝子。司の家を、料亭ではなく、待合と云う。

・大学生たちのリーダーは本郷淳。他に大塚国夫児玉清もいる。

・芸者たちは外国人接待のために英語教室へ通っている。その先生で岡田真澄

・南武線尻手駅(川崎市)で事件が起きるが、なぜ尻手駅なのか不思議に思う。事件関係者は、直前のシーンでは五反田の近くの呉服屋にいたと思ったが。

・三橋は足が不自由(左足が跛行)。シベリアで1ヶ月裸足で歩かされたため。

(評価:★4)

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