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[コメント] 娘・妻・母(1960/日)

「娘」は長女の原節子、次女に草笛光子、三女が団令子。「妻」は草笛がそうだが(原は序盤で寡婦になる)、長男−森雅之の妻である高峰秀子と、次男−宝田明の妻−淡路恵子。そして「母」が三益愛子だ。
ゑぎ

 しかし、高峰と森の間には小さな男の子がおり、高峰も母だし、草笛の家族、夫−小泉博の母−杉村春子も、いつもながらだが抜群の働きをする。また、高峰と淡路は、三益にとって(義理の)娘でもある。

 こゝに高峰の叔父さんで育ての親でもあるらしい加東大介と、団の恋人の太刀川寛、さらに彼らの友人の仲代達矢、原の友人で保険の外交員−中北千枝子を加わえて、これらが主要人物と云っていいだろう。この中では、特に加東と中北が、あちらこちらに顔を出し、プロットをかき回す役割を担う。

 本作は徹頭徹尾(最初から最後まで)、やたらとお金の話が出て来る映画であり、この点でも実に面白いが、この部分は下で備忘としてまとめることとする。こゝで私が書き留めておきたいのは、成瀬らしいキャッチーなシーン繋ぎだ。もう梗概に触れずに例をあげていく。まずは、冒頭、中北が保険の勧誘に回るかたちで、淡路と宝田の店(カフェ及び写真スタジオ)から草笛の嫁ぎ先(杉村と同居している家)、三益と高峰と団たちの住む家を繋いでいき、主要人物の関係を紹介する、手際の良いセットアップ。そこに、唐突に原の夫の死が知らせられる見せ方。

 あるいは、高峰の子供が、原に「ご本読んで」とせがんだ次のシーンで、本を読むのは団、という繋ぎ。高峰が「夫(森)は今日も遅い」と云ってすぐ、バーにいる森が女給の北あけみから、パパと呼ばれているのを見せる。このような、誰かが他の人の名前をあげると、次にその対象の人を繋ぐといったカッティングは無数に出て来る。これを派生させて、草笛が杉村に「お母さん!」と云ったすぐ次に宝田が三益に「お母さん!」と云うのを繋ぐなんてのもある。そして、銀座の舗道に女の足元を映したシーン導入部があり、対になるように、後のシーンでは、男の足を映した導入部を持ってくるなど。

 また、本作にはとても愉快な映画中映画のシーンがある。三益の還暦祝いのパーティで皆が集まった際、団と宝田が撮った8ミリフィルムの上映会があるのだ。縁側で居眠りする三益が映り、高峰の家事(洗濯など)をする様子が続くのだが、これが微速度撮影(早送りみたい)になっている(「撮影のとき回転が遅くなっていた」と団が云うのは明晰な科白)。また、ピクニックの場面で「変なラブシーンばっかり」と云う草笛の科白が彼女らしいし、仲代と原が出てきて、木の影に2人隠れてしまうショットでは「なかなかサスペンスがあるな」と普段大人しい小泉が云うのもいい。

 勿論、複数人物の会話シーンで切り返す演出、いきなり思いもしない人を抜いて繋ぐカッティングなんかにも、惚れ惚れする。例えば、冒頭の、モデルの笹森礼子がポーズするショットの挿入。切り返しだと、三益、原、高峰、団の4人がケーキを食べるシーンでの、原と高峰の切り返し。この後、原の視線の動きで森の立ち位置を示す演出があるが、こういった成瀬らしい切り返しと視線の演出では、やはり、原と仲代が宝田の部屋で二人きりになる場面が白眉だろう。こゝでは、原を何度も振り返らせる演出をつけ、原の視線の変化で仲代の位置の変化を(2人が近づいていることを)表現するのだ。

 さて、本作もこのように多くの人物が登場する群像劇で、主要人物がそれぞれに良い見せ場を与えられた構成と演出の巧みさには舌を巻く。では、主人公は誰だろうと考えたとき、クレジットでは、一枚目に原と高峰が並記されるけれど、プロット上、特に後半になって原の身の振りように焦点があたるので、断然、高峰よりも、原、ということになる。三益が、何もできない(仕事の経験もない)原のことを、お前が一番心配、一番親不孝と云うシーンを見て、あゝやっぱり原が主人公だと思った。原が仲代に「お嫁に行くほか能がないんですって」と云うのもたまらない。しかしだ、ところがラストは三益が締めるのだ。このラストシーンの素晴らしさといったら!

#備忘でその他の配役等を記述します。

・三益や高峰の家の女中は江幡秀子。高峰の子が遊ぶ近所の公園のシーンで登場する老人は笠智衆。中北の知人で京都の有名なお茶の先生は上原謙

・原と仲代が行く美術館は上野の国立西洋美術館(前庭と建物しか映らないが)。

#科白で出て来るいろいろな金額を備忘で列記(まだモレがあると思いますが)。

・淡路が中北へ払う貸付信託は月1万円。団は月給9千円。生活水準が分かる。

・宝田はお通夜に3千円払った。杉村はウチは5百円でいいよ。

・草笛は、夫と見る映画は三本立て55円、と云う。

・三益の家は坪4万円で160坪。遺産の取り分を計算する団。

・原は夫の生命保険で100万円受け取る。

・高峰の子は、100万円は、100円と万円だね、と云う。

・加東は森から100万円の借金をしている。

・家に入れる生活費。団は月2千5百円だから、原は5千円。

・団は会社の試供品(宣伝用)のワインを1本400円で宝田に売る。

・太刀川は400円なら二人でカレーライス食ってビール1本、と云う。

・原が皆で食べるために買ってきた上等のショートケーキ1つ80円。

・森が高峰に、簡易保険が来月満期、20年掛けてたのに5千円だよ。

・森は加東に頼まれ原から50万円借りる。

・草笛は、杉村と別居するため20万円必要と云い、原から借りる。

・加東が杉村の所へ来て、1個150円の洗剤を100円で売り込む。

・養老院(老人ホーム)の頭金は2万円、四畳半で月6千5百円。

・近所の子供を預かる内職は1日70円。

(評価:★4)

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