[コメント] 愛の世界 山猫とみの話(1943/日)
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「少年審判所」なる組織の阿呆のようなプロパガンダで、予算獲得のため撮られたとしか思えないが、幾つかの時局尊重及び官尊民卑な切り口(駐在さんが正義の味方なのだ)に鼻をつまめば後半余り気にならなくなる。逆に後半だけ観たら何のプロパガンダか判らない訳で、東宝としては間抜けな官僚に上手く取り入って作ったメロドラマなのだろう。
序でユーモア、中でシリアス、終で泣き、というパターンの映画に食傷気味な昨今、本作はこれを逃れているのが好ましかった。顧みれば泣きは里見藍子の先生の件以外殆どなく、序盤はシリアスから始めるが、中・終盤は殆どがユーモアで占められている。子役ふたりがやたら巧くてユーモラスで、なかなか喋らない凸ちゃんという巧みな引っ張り方がこのユーモアで解けるというリズムがとてもいい。施設で喋れ歌えと云われて応えず、逃げた山小屋でヒューマニティに目覚めるのだから、プロパガンダとしては失敗だろう。ついには凸ちゃんの方が里見先生を許すのであった。
夜中に食堂に貼ってある「食前ノコトバ」なる一文を凸ちゃんがひとり読み上げる件があるが、そもそもあの悲惨な境遇で、彼女は文章が読めたのだろうか。そこを確認しない施設はおかしかろうと思う。凸ちゃんが馬に乗ってみせるのはヒット作『馬』を踏まえてのもので、この辺りアイドル映画のつくり。「御免なさい」に色んな意味を重ねるラストの笑顔がとてもいい。ベストショットは台形の山に向かい岩の上で伸びをする凸ちゃん。本作は「国家」のお世話にならずに生きていた進藤英太郎一家と凸ちゃんの交流の物語と取りたい。
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