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[コメント] 愛の世界 山猫とみの話(1943/日)

本編前に国策標語「一億で背負へ譽の家と人」が出る。立派な建物の窓を映してクレジット。ちなみに本サイト(CinemaScape)では記載がないが、脚本クレジットの黒川慎黒澤明の変名。助監督は市川崑だ。「東京少年審判所」の看板が、ディゾルブで浮かび上がる。
ゑぎ

 東京少年審判所の建物の中、里見藍子が、呼ばれて部屋に入ると、審判官?の清川荘司がいる。タイトルロールの「とみ」−高峰秀子の経歴を喋り始める。経歴の中では、曲馬団にいた、というのは重要な点だろう。中盤以降、子供らの前で逆立ちをしたり、裸馬に乗ったりするシーンがあるからだ。ちなみに、馬に荒縄を首に回して跨るカットは高峰だが、走らせるのはスタンドインだ。走るショットでは頭絡(頭部に付ける革紐)が見える。荒縄を首にかけるだけでは、スタントでも乗りこなせないのだろう。

 さて、里見先生が、一言も喋らない高峰を連れて青森まで汽車の旅をする。この汽車の停車シーンは、栃木駅。里美が井戸水を汲みに行き、戻ると高峰がいない。逃げたのか、と思わせられるが、ホームから慌てて飛び乗ってくる。しかし、目的地である青森の片田舎、四辻学院の手前では、矢張り、高峰は逃げる。こゝで、走るショットはコマ落としで見せる(以降、何度もコマ落としが出て来る)。原野を走るのは横移動で収めているが、川の中を渡るシーンは、ずっと俯瞰の移動だ。これはどうやって撮っているんだろう、と思いながら見た。

 学院に入っても高峰は一切口をきかない。だが、里見もそうだが、院長の菅井一郎もとても優しい先生だ。菅井には「今は、男も女も大人も子供も一人残らず戦争をしとるんだ」「全員がお国のためにならなくちゃいかん」と生徒たちに諭すシーンがある。また、生徒の中では、喋らない高峰と生活上の問題も出て来るし、それを容認している里美に対する反感も高まって来る。対立する生徒の中のリーダー役は谷間百合子で、里見の音楽の授業中、高峰が唄わないからと、谷間をはじめ、皆が唄わなくなってしまう。この後、高峰は谷間をやっつけ、学院を逃走してしまうのだ。

 こゝからプロットはギアシフトし、ほとんどラスト近くまで山中での高峰の逃亡生活が描かれる。これも私は予想外だった。学院の中で先生や仲間たちを通じて成長するお話かと思っていたのだ。谷間をやっつけて逃げたあと、まずは、自由を満喫し、山中を楽しそうにスキップしながら走る横移動ショットが繋がれる。なんか、いきなりアイドル映画らしくなるのだ。しかし、この後、夜になり、山肌を転げたり、滑り落ちたりといった厳しいシーンが来る。実はこゝ長い。木が歪んで見えるエフェクトや、崖の上の高峰の右下に雲海があるスクリーンプロセス?があったりと頑張って見せてくれるのだが(特撮は円谷英二)、いかんせん冗長な感覚を持つ。そして、川の側の小屋を見つけ、小さな子供2人との生活になる。お父さんは、熊を狩りに出ている。お母さんは石の下(お墓の中)と云う。子役2人との絡みになると、ようやく高峰から科白らしい科白が聞けるし、子供 らも上手いので楽しい部分だ。

 一カ月近く経ったという想定だろうか、村で盗みが横行し、それが16歳ぐらいの娘の仕業だという噂が学院にも届く。里見が警官−永井柳筰と村へ行くバスの中では、犯人はヤマネコみたいな娘だと皆が喋るが、中に田中筆子がいる。村人の中には一の宮敦子も出て来る。終盤、子供らのお父さん進藤英太郎が登場してからの捜索シーンもちょっと長い。この終盤の展開は記述しないが、エピローグは学院の農場で、斜面の下の奥まで人がいるパースペクティブな風景を横移動する。こゝはとても爽快なシーンだ。高峰が坂を走り出し、アップ気味のバストショットでニッコリ笑う。撮影時18歳頃の高峰秀子、笑うと文句なく可愛い。

(評価:★3)

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