コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] マクベス(2015/英=米=仏)

今更マクベスかよ、と言われれば返す言葉もないのだが、あえて今CGやスペクタクル方面の味つけを抑えめにし、低予算なりに画面設計の佳さで見せる方向にもってゆかれれば嬉しくもある。極めてストイックで上品なまとめ方は、今後のシェイクスピア映画の指標にもなり得るものだと感心させられる出来栄えだった。
水那岐

そして俳優陣の奮戦も大したものだった。コティヤールの夫人は今までにない艶やかながらも端正な、虫も殺さぬ顔で凶行を示唆する毒婦として印象に残ったし、対するファスベンダーのマクベスも表情表現の過多さが例をみない冒険的なマクベス像として興味深かった。まだシェイクスピアの新鮮な切り口があると判っただけでも十分な拾い物だ。

ちょうどシェイクスピアの切り口においては新鮮な例を示してくれた、蜷川幸雄の死去と時を同じくして、この映画が国内封切りされたことも印象深い出来事ではあった。蜷川の舞台にあったのは斬新な舞台上のヴィジュアルのみとも言えるのだが、それは現代のパフォーマンスの在りかたとして十分なものだろう。なまじ自分のメッセージ性などを表に出さんとすると、アル・パチーノの『ヴェニスの商人』のような鼻持ちならないお説教劇になってしまう可能性が大きいのは自明のことだ。シロウトが頓珍漢な作劇論を持ち込んで、原作の思想的リズムを崩壊させてしまう愚だけは避けなくてはならないだろう。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。