[コメント] ヘイル、シーザー!(2016/米)
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『グッドモーニング・バビロン!』で1910年代ハリウッド黎明期を描いたのはタヴィアーニ兄弟ですが、コーエン兄弟が今回描くのはその1950年代頃のハリウッド全盛期。 この映画の妙は、「古き良き時代のハリウッド映画」に愛情を寄せつつも「古き良きアメリカ」なんてものを描く気はさらさら無いこと。 私はコーエン兄弟を「人間の欲を巡る悲喜劇」と「アメリカの土着性」を描く作家と思っているのですが、今回も積極的にアメリカの“暗部”をシニカルに笑う。むしろ「古き良きアメリカ」なんてものは幻想だと言っているよう。コーエン兄弟はタヴィアーニ兄弟じゃない。コーエン兄弟はシニカル兄弟。言いたいだけ。
これまで彼らの映画の多くは、事件や犯罪計画が思わぬ方向に転がり、事件に関わる登場人物が右往左往する「人間は可笑しくて悲しい」というのがメインテーマで、サブテーマに「アメリカとはどういう国か」ということが描かれていたと思うんです。 ところが今回は、事件自体はシンプルで、周辺情報が非常に多いんですね。 宗教から始まって共産主義やら同性愛やら、いやもう、いちいち取り上げるのも面倒なほど盛り沢山なんですよ。
思い返すと可笑しいんことは可笑しいんですがね。 共産主義に目覚めたジョージ・クルーニーをジョシュ・ブローリンがビンタするとかね。 屁理屈を腕力でねじ伏せちゃう辺りもアメリカ的だなぁと思うし。
だけどワッハッハって映画じゃない。クスリと笑う所もあるんだけど、やっぱり日本人には皮膚感覚で分からないところが多い。多すぎる。
例えば「ヘイル、シーザー!」なるキリスト映画を制作するに当たり「プロテスタントとユダヤ教も呼べ」ってクダリがあるでしょ。 これ日本だったら、例えば仏教映画を作るってんで「天台宗と日蓮宗と浄土宗と浄土真宗と臨済宗と曹洞宗を呼べ。多いな、他に何がある?」「創価学会とか?」「教祖は池田大作だろ?」 これだったら皮膚感覚で分かるんだけど。
まあ、コーエン兄弟らしいんだけどね。
(16.05.21 TOHOシネマズ新宿にて鑑賞)
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