コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] おしゃれスパイ危機連発(1967/米)

当時45歳頃のドリス・デイと36歳頃のリチャード・ハリスによるスプーフ・スパイ映画。開巻は雪山のショットで、右に少しパンすると、白いウェアのスキーヤーがジャンプしてフレームインする。
ゑぎ

 こゝから始まる黒いウェアの悪漢とのスキーチェイスは良く撮れている。しかし、続くパリの場面で登場するドリス・デイは、役柄と状況からの要請なので仕方がないが、ずっと、しかつめ顔だ。なんか不貞腐れているようにも見えるのは、やはり、製作経緯に問題があったからだろうかとゲスイ勘ぐりをしてしまう。ちなみに、終盤にも冒頭とそっくりのスキーチェイス・シーンがあり、こゝはデイ本人が見事なスキーの滑走姿を見せるし、やっぱり編集含めて良い出来なのだ。

 さて、先に脇役について書いておく。本作の悪役のボスはレイ・ウォルストンで、いつもの(例えば『ねえ!キスしてよ』の時のような)コメディ演技は押さえて悪役になり切っている。デイの上司にエドワード・マルヘア。この人は役名がジェイソン卿というだけあって、優雅な英国紳士。ハリスの上司はジャック・クラスチェン(彼は『アパートの鍵貸します』の配管工役でオスカーノミニーだ)。いつも怒っているような厳しい役だが、オーバーアクト気味なところは、コメディパートになる。あとは、ウォルストンの秘書役でアジア系のアイリーン・ツーという女優が出てきて、デイでは叶わないセクシー担当を任されている。

 上でスプーフ(ちゃかし)という言葉を使ったが、笑えないコメディシーンが結構出て来るのだ。依然、デイは楽しそうに演じてはいないけれど、例えば、アイリーン・ツーが住んでいる高台の家のバルコニー(サンセット大通りから見えたとハリスが云う)にデイがぶら下がり、あげく崖を滑り落ちてドロドロになる場面なんかは、実に頑張っている。あと、デイが映画館に入る場面では、サインボード(看板)に本作原題が見え、上映中にはデイの主題歌が流れるといったメタな趣向だが、こゝでワンポイント投入される、前の席からデイの脚を触ってくる男はマイケル・J・ポラードだ。

 ま、全体的な感想としては、中途半端な出来だと思うが、それでもタシュリンらしいクレバーな演出をいくつか指摘することができる。例えば、終盤のスキーチェイスの後の、デイとハリスが部屋でキスするショットから、雪原を行く橇でのキスへ繋ぐマッチカット。これに続けて、デイとウォルストンが雪上で会話するシーンで、いきなり画質の荒いツーショットのカットが繋がれたと思っていると、隠し撮りをしたフィルムを見ているクラスチェンの場面に時空を超越させていたと分かる処理など。あと、私が一番感激したのは、序盤のハリスとデイが、撮影所内を歩くシーンで、本作撮影者であるレオン・シャムロイが本人役で登場したことだ。本作中でも、デイのウェストショットやバストショットで、目の覚めるような美しい画面が出現する。シャムロイの仕事ぶりを楽しむということでは、十分に面白い映画だと云えるだろう。

#ウォルストンの義母マダムピアスコ役は『野のユリ』のリリア・スカラだ。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。