[コメント] 少年H(2013/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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妹尾河童によるベストセラーの映画化作。水谷豊と伊藤蘭というリアル夫婦共演ということでも話題になった。
記憶だと、小説の方が売れたのは20年ほども前。私自身もその時に読んでいる。ただ、最初この作品は著者の子どもの頃をリアルに描いたというのが売りだったが、多分その売り方のせいだろうか、その当時から時代考証がおかしいとか、家庭を美化しすぎだとか、色々批判は食っていたものだ。折からネトウヨと呼ばれる人が出てきた事もあり、あの当時のネットでは相当に叩かれた記憶がある。
ただ、これはあくまで小説なのだから、それで良いんじゃないの?というのが私のスタンス。この作品で読みたいのはリアルさじゃない。これは物語としても良い感じ。悲惨さの中での人間性ってものを読ませてくれたのだから。だいたい藤子不二雄Aの「少年時代」だって創作で、色々誤解もあるのに誰もそれにツッコミ入れてない。これで良いと思う。
それでこの作品、あの当時に作ってれば良かったのに、なんで今頃になって?という疑問はあるものの、質にこだわった降旗監督のその作り方は良く、普遍的な良作として考えて良かろう。
ところで戦争を描く作品にはいくつかのパターンがある。戦争を直接描くのが一番メジャーだろうが、それだけではない。
多用されるのが銃後の一般人の生活を描くこと。実際の戦いを描く事なくその悲惨さを描く事が出来るので、特に反戦映画では良く用いられるし、それにアクションシーンがないために自然と市民の生活を細かく描写することが出来るので、ドラマ性を深める事が出来る。
そしてこの場合、銃後を守るものとして、母を描くか、子供を描くかに分かれるだろう。母を描くならより悲惨さを強調出来るし、子を描くなら素直な心で戦争そのものに対する疑問を描くことが出来る。
こうしてパターン化していくと、本作の位置付けは明らかであり、そしてまさしくその通り物語は進んでいく。
主人公Hは、貧乏ではあってもモダンな両親に育てられた子で、他の子とは違って“みんながしてるから”という価値観では動かない。それが「一言多い」と言われたりする。
いわばHは視聴者の代表たる現代人であり、今の目から見ておかしくなってる時代を未来から見ている立場にある。
これは反戦作品を作る上で最もオーソドックスな作り方になる。小説が出た当時に反発を食ったのもまさにその点だっただろう。あたかも「俺だけは時代に流されずに生きてきたんだぞ」と自慢してるように見えてしまうから。その部分が確かに気持ち悪い。小説のこの点が気持ち悪がられてたのかな?とか改めて思ったりもする。
でも同時に、このことを創作を通して伝え続けることも又必要なことなのだろう。 その辺はさすがヴェテラン古旗監督。その辺もちゃんと踏まえた上で、“今自分が作らねばならないもの”としてこの作品を位置づけているようでもある。
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