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[コメント] LOOPER ルーパー(2012/米)

大きな風呂敷をハンカチ以下に畳み込んでしまったような?なんかその辺釈然としないものが残る。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 ここ近年、CGの発達によって大規模なSF作品が台頭してきた。ものすごい予算を使った見所満載の作品は、これはこれで面白いのだが、ぴりっとした良質な低予算SFも結構増えてきていて、特にこういった作品が好きな私としてはこれも嬉しい。

 低予算SFの良いところは、様々なしがらみがないために、物語に社会風刺を入れることが出来たり、アイディア勝負でどんでん返しを効果的に入れることが出来たり、キャラを際だたせる事が出来るなど、利点も多い。見た目がショボくても、映画の質としては大予算作品よりも確実に上をいってると思わせてくれる作品も多い。

 そんな風潮だから、この作品にはかなり期待をしていた。タイムパラドックスを扱ったものは特にどんでん返しを入れやすいし、どんな驚きを見せてくれるだろう?と、かなり楽しみに劇場へ。

 設定面で本作の面白いところは、扱っているのが近未来で、一種のディストピアを描いているのだが、更にその30年先の、更に暗くなっていく未来を描いているというところだろう。このまま世界が続けば、実際こんな世界になってしまうかも知れないって部分も、風刺としては機能してるだろう。最早アメリカ社会は未来に希望がないって部分はかなり気に入った部分。

 科学が進めばみんなが幸せになると言った幻想は既にオイルショックの時点で振り捨てられている。科学が進む事は、本来は平等な社会を作るはずなのだが、逆に貧富の差は広がっていく事が描かれる作品が多い。本作でも、タイムマシンが開発されたとしても、やっぱり人々は不幸になってしまう。まずはその事を丁寧に描いているのが好感。そして色々不幸なことが起こるとしても、それを見ないように生きている主人公たちのやるせない心情もちゃんと出てきている。

 この辺はとても面白いが、そこで色々設定上の問題が出てくる。

 LOOPERは30年後の自分自身を殺す(ループを閉じる)ことによって、LOOPERとしての任務を完了する。とても皮肉で面白いが、それって効率的には悪い方法なのでは?実際今殺そうとしているのが自分自身であることを伝達できる方法はあるし、それで逃がしてしまうことも確率的にはそう低くはない(現にこの物語だけで2回も出ている)。タイムパラドックスについてあれだけ慎重にと言っている割にはいい加減なシステムだ。

 それにそのタイムパラドックスについてもかなりいい加減な設定になってるような?例えば最後に主人公が自殺したら、未来の自分も消えてしまう訳だが、そもそも現在の自分と未来の自分は別人格になるため(時の流れが違うから)、主人公が自殺しても未来の自分は残るのでは?という気もするし、もしリンクしてるとしても、最後に自殺がわかっていたら、未来の自分は存在し得ない…書いていて自分でも分からなくなってきたが、これが“パラドックス”と言われる所以なんだけど。

 それで物語なのだが、これもなんか微妙な感じでもある。なんというか、元々が未来の自分が現れ、それを殺し損ねたので、それをどうするか?と言うのが物語の骨子だったと思うのだが、いつの間にかそれが超能力を持つこども、シドを守る話になってる。これはこれで立派な物語なのかもしれないけど、後半の設定はヴァン・ダムの『ボディ・ターゲット』かと思った(更に言えば『シェーン』かも?)。

 未来の強力な超能力者の芽を封じるってのも、実際に未来が変わったかどうかも分かってないし。そもそもその未来の超能力者が“悪”と断定していること自体もおかしい。確かに未来のジョーがこの時代に送られてきた場合は、シドは悪魔になるけど、そうではない本来の未来では、犯罪組織を統合してループを閉じる正しい行いをしている人物という可能性もある。そもそも今、あのガキを放っておいた場合、やっぱり悪人になってしまうという、その可能性のことは放って置かれてしまったのでは?

 その辺、どうにも釈然としない部分あり。

 昔のSF映画と較べると格段に出来は良くなってる。ただもやもや感は最後まで残った。

(評価:★3)

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