[コメント] おおかみこどもの雨と雪(2012/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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とにかく特筆すべきは風景の描写だ。 CGとの合成とはいえ、実写か?と錯覚するくらいに書き込まれた風景は驚愕の出来 だ。 それに加えて、この監督の新作であるということが作品のハードルを自ら上げた。 他のレビュアーの方も仰るように小さなフェイクがいちいち流れを止めるのだ。
狼男の告白の直後の交歓シーンは誰もが違和感を感じたはずだ。 自分も嫌悪感のほうが先に立ってしまった。 あれでは交歓に至るまでに何の葛藤も花の中にはないように見えてしまうのだが、 彼の正体なんかハードルにならないくらい二人の気持ちが燃え上がる描写はそれまで 一切ない。 そりゃあ心の中では熱い想いが滾っていたのかも知れないが、そんなの察せよと 言うほうが無理だ。 何故、狼男である告白と、その彼との交歓の順序を逆にできなかったかなあ。 交歓の後の告白、それでも彼を愛そうと決める花、その後懐妊に気づく二人・・・。 まだそのほうがみんなしっくり来るのに。
後半、豪雨の中、雨を探しに山中に向かう花にも妙に違和感がある。 普通の子供ならわかるが、雨が狼であることを認めている花があそこまで必死になる のはしっくり来ないし、 その間に雪のことが頭をよぎっていないのも気になった。 つまり、雨と雪が花を引っ張り合っていないのだ。引っ張らないなら引っ張らない で、 雪も花も(&草太も)雨捜索に力を尽くし、雪の告白だって山中でもよかったのでは ないか。
探せばまだ出てくるのだが、どちらかといえば重箱の隅を突いている気分になる。 つまり、それだけハイレベルな作品であることに異論はないのだ。 細かいトゲはいくつかあるが そんなことを忘れさせてくれる力も当然この作品は持っている。 父親の亡骸の廃品回収車のくだりは個人的に説得力があったし、 子供たちがカメラ目線で話しかけ、魚眼レンズのような画は頭身の少ない幼児には ぴったりだった。 前述の美しい背景は、単純な線で描かれた人物との対比だからこそ生きている。 前半の生活のほとんどが台詞が乗ってこないのも良い効果が出ていた。
心残りは一点。 監督の前作で作品を押し上げていた印象的な音楽が今回はない。 作品の邪魔をしない、象徴的な音の連なりはあるのだが、それはメロディではない。 使い方によっては相乗効果が狙えたはずの相棒がいなかったのは甚だ残念だ。
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