[コメント] 一命(2011/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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滝口康彦による小説「異聞浪人記」の二度目の映画化作(現在は「一命」という題になってるようだが)。でもどっちかと言えば、これは小林桂樹の『切腹』(1962)の忠実なリメイクと言ってしまって良い。
物語自体は細部まで『切腹』と全く同じ。下手にいじってないのは大変ありがたいし、海老蔵も見事なはまりっぷりを見せているので、その点は評価してもいいだろう。
でも、だったら『切腹』一本でなにが悪いんだろう?とも思う。シンプルな物語なので、手の加えようがないのは分かるが、だったらリメイクする必要はないんじゃなかろうか?同じリメイクなら明確にエンターテインメント化させた『十三人の刺客』の方が遙かにおもしろく感じるぞ。
それでも何故“今”リメイクする必要があるのかと言う点から考えてみよう。
『切腹』はまさに当時の日本人の心を示し、「これが日本人の根本だ」という事実を示した作品と言える。既に高度成長時代に突入し、ぐんぐん上昇していく日本経済。しかし、諸外国から観られているような、いわゆる“エコノミック・アニマル”ではない、日本人はこんな覚悟を持っている。という精神的なものをあの当時の空気の中で出したことに意味があった(もう一つの日本の意地は同じ小林監督の『上意討ち 拝領妻始末』(1967)を併せて観るとなお強く感じられる)。日本人の根っこにあるアイデンティティである意地をスクリーンに投影して見せてくれた。愛社精神とか、なりふり構わずに経済活動に邁進する日本人の真の姿はここにある。ということを主張した作品に思える。
一方、本作が今作られたということは、やはり意味を持っていたのかもしれない。
今や日本経済は下降の一途を辿り、大学を卒業しても就職もままならない世相が背景にある。『切腹』ではアイデンティティだったものが、今や現実のものとなってしまっているのだ。
そんな中だからこそ、「今こそ意地を持て」と伝えようとしているかのような印象も受ける。監督の思いはともかく(この人は職人だから、そう言う考えは持ってないとは思うんだが)、少なくとも本作が企画を通ったのは、そんな意味があったようにも思えるものである。“今”の日本人に、意地を持たせられるようがんばって作った作品とは考えられる。
また一方では、昔の作品を海外に流出させるよりも、新しい作品として、日本人を世界中に観てもらおうという気持ちもあったのかもしれない。
そんな意味ではちゃんと今作られた理由はあるのだろう。
ただ、先ほど“忠実なリメイク”と書いたものの、やはり三池監督なりの意地もあるようで、あの当時描くことができなかった部分を描写した部分がある。それが全部残酷描写になってしまったあたりは、やはり三池監督はどこまで行っても、こういう人なんだな。と思わされるところはあり。
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