[コメント] 巴里の女性(1923/米)
というのも「ピエールのビジネス・オフィス」とインタータイトルが出た後の、寝台に寝たまゝで仕事をしているピエール−アドルフ・マンジューと部下との会話シーンのカット割りを、切り返しとする人もいるかも知れないと思うからだ。まず云えることは、本作において切り返しに近いカッティングはこゝだけだ。しかし私は、この場面の2人の姿勢が正対しているわけではなく半身であることや、ほとんどカメラポジションを変えないで、カメラの向きだけ変えて一人ずつを切り取っているように見えることから、これを切り返しとは認められないと考える。本作の会話シーンの基本の画面構成及びカッティングは、複数人物を横に並べて、一人ずつ、あるいはツーショットなどで抜くといった極めてサイレントらしいものだ。このマンジューのビジネス風景の場面もそのバリエーションに過ぎないと私には感じられる。私は、無類の切り返し好きなので、ずっと切り返しを希求しながら見た。
また、切り返しは無いけれど、アクション繋ぎらしいカッティングは随所にある。上にも書いた通り、横の構図で提示された複数の人物を、個別のショットに切り換える際に、動作所作の途中で繋いでいる場合がある。いや、それだけでなく、例えば、主人公のマリー−エドナ・パーヴィアンスが、窓から落としてしまったネックレスの拾得者を追いかけた後の、ヒールが外れた靴を見せるカッティングは、純然たるアクション繋ぎだろう。あるいは、アクション繋ぎよりはポン寄りに近い意識なのかも知れないが、良いリズムを生んでいると思う。
さて、良い細部をもう少しあげておこう。冒頭の建物の外観を数カット繋ぎながら、窓の前に立つパーヴィアンスに寄っていく演出はこれもポン寄りっぽいものだ。喜劇的な場面は少ないが、中盤のカルチェラタンのアパートを舞台にした男女のどんちゃん騒ぎの中で、白い布を巻き付けた女性が現れ、男性が布を巻き取りながら(自分に巻き付けながら)、女性を丸裸にする、この見せ方は特筆すべきじゃないだろうか。勿論、時代的にヌードは出てこないが、この演出のアイデアって、もっと後の映画が真似をしても良いのにと思った。あと、本作が優れて人間の機微を描いていると感じられる要因の一つとして、マリーの友人のフィフィとポーレットの造型をあげるべきだろう。私も、自邸で出張マッサージを受けるパーヴィアンスのシーンが、本作の中で最も良い場面、面白い演出じゃないかと思われるぐらいだ。友人2人の会話中、パーヴィアンスを全く映さず、呆れ顔のマッサージ師の女性を映すという編集の妙。このシーンをパーヴィアンスの笑顔で閉じる、チャップリンの度量の大きさには感嘆する。演出の器の大きさという点であれば、マンジューのキャラ造形に触れねばならないと思うが、これは多くの方が指摘しているので割愛しよう。ただ、実年齢33頃のマンジューが、こんなに老けている、いや老成して見えるのには驚いた。30年以上後の、キューブリック『突撃』の彼とあんまり変わらないんじゃないかと思ったぐらいだ。
#お馴染みのチャップリン組メンバは大男の給仕−ヘンリー・バーグマンだけか。
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