[コメント] 英国王のスピーチ(2010/英=豪)
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観る前の印象とはだいぶ違う映画だったので良い意味で驚かされた。史実を元にしたコテコテの感動大作をイメージしていたが、全然そういった感じがしない。演出もキレがあって、コメディ要素も強い。その中で、締めるところはしっかり締める。第二次大戦下で国民の士気を高めるための国王のスピーチが題材となると、一歩間違えばプロパガンダにもなりかねないのだが、全然そういった臭いがして来ない。国王が主人公なのに、まるで一般人の物語を眺めているかのよう。こんなに嫌みなく作れるのか、と感心してしまった。
アカデミー賞主演男優賞を受賞したコリン・ファース演じる吃音に悩むジョージ6世の存在感は言わずもがなだが、コリン・ファースに主演男優賞をもたらしたのは周りの演技派たちの力も大きい。特にローグを演じたジェフリー・ラッシュの存在。国王と平民をつなぐ架け橋のような存在の彼が、時にコミカルに、時にシリアスに、観てる側の感情をコントロールするように立ち回ってくれたことはデカい。ジェフリー・ラッシュに助演男優賞あげても良いくらいだと思う。
そしてなんと言っても、ラストのスピーチシーンは名シーンですね! クライマックスのスピーチシーンと考えるとかなり静かに作られていると思う。やろうと思えば、もっともっと感情を高揚させるような演出もできるはずなのに、それはせずにじっくりと聞かせてくれる。緊張感は保ちつつ、気持ちを鎮めるための「ファック」と言うジョークも挟みながら、じわじわと心に言葉を響かせてくれる。
このスピーチは、吃音の国王のスピーチだからこその静かなスピーチシーンに思え、ヒトラーがやっていたような高らかに感情を鼓舞するような演説とは対局にある。大統領や指揮官による映画のクライマックスのスピーチとしてはかなり抑え気味に見せることで、逆にいい味わいの余韻を残してくれる。スピーチ後に民衆に答える王の表情も、後ろで見つめるローグの表情も、その静かな余韻の中でとても味わい深く感じられた。
こういったラストシーン、一時的に気持ちを昂らせる演出より、あとに残る印象的なシーンになり得るのだ。
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