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[コメント] アブラクサスの祭(2010/日)

冒頭のライヴ・シーンにおけるスネオヘアーの風貌と振舞い、あるいは演奏されている楽曲のサウンドやバンド編成を見ても、彼にカート・コバーンのイメージが投影されているのは明らかだろう。人一倍ノイズを感受してしまう繊細な魂の持ち主はギターを掻き鳴らしてノイズを撒き散らさねば生きられない。
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







音楽に嘘をついていない、というのがまずこの映画のよさのひとつだろう。クライマックスの演奏シーンは會田茂一中尾憲太郎小松正宏という、その界隈の音楽が好きな者には堪らない豪華面子を招いての同時録音。PA卓とエンジニアをちゃっかり写し込んだカットまである。物語の転換点となる中盤の海岸シーンは感情の渦巻くまま無茶苦茶に鳴らされたスネオヘアーのエレキギターが海や岩や光線と響き合ってマジカルな瞬間を到来させるが、それは決してまったくの僥倖によってもたらされたものではない。映画はいくらでも「嘘」をつくことができるにもかかわらず、労と危険を冒してまで発電機とアンプを持ち込んで波しぶき飛び散る内に置くこと。音楽と画面に対するその誠実さがあって初めてマジックが訪れる可能性は開く。

他に突出したシーンとして筆頭に挙げるべきはやはり三面鏡の場面か。頭でっかちな演出という批判もあるかもしれないが、今までに見たことがない画面であるという一点だけを取っても私はこれを肯定したい。と云った舌の根も乾かぬうちに「まるで『上海から来た女』のようだ」などと云い出すのが私の悪い癖で、しかし実のところこれは、それとはよい意味で似ても似つかない、とてもとても優しいシーンだ。

脇役も皆いい。私が見た限りの近作には珍しく、小林薫は巧さが全面的に役柄を活かしている。ほっしゃん。はぎこちないところもあるが妙に納得感のある配役で、やはりこの映画に欠かせなかったひとりだろう。ともさかりえ本上まなみも人格的演技とでも云うべきすばらしい仕事ぶりだ。私は今まで彼女たちを少し侮っていたということを率直に認めて反省したい。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ペペロンチーノ[*]

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