[コメント] 仁義なき戦い(1973/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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日本暴力団抗争史上で最も多くの血を流した“広島ヤクザ戦争"をドキュメンタリー的に描く。原作は抗争渦中の美能組元組長の獄中手記をもとに書き綴った飯干晃一の同名小説で、1973年邦画興行成績7位。このヒットに気をよくした東映は次々と続編を投入していく。
東映はこれまで数々の人気シリーズを劇場に投入していった。東映作品の特徴として、色々なタイプの映画を投入し、その中でヒットしたものがあったら、それをとことん続かせていく。水物と言われる映画を作り続けていくための東映が取った独自のスタイルとも言えるだろう(これは当然テレビでも似たような所があって、東映の作り出した数々の特撮作品はシリーズ化したものが少なくない)。
戦後の映画になると、当初はチャンバラは東映!と言われたが、それが下火になっていくと、代わりに任侠作品をどんどん投入していった。そしてそれも下火になっていくと、今度は様々なタイプの作品をばらまいた(言い方が悪いけど)。その中でいくつかのヒットが生まれていったが、本作はそのうちの一つ。これまでの“任侠もの”に対し、“実録もの”と呼ばれるジャンルを確立した作品なのだが、そもそもは大作を目して製作されたものではなく、“下手な鉄砲も数打ちゃ当たる”精神の一貫として(またまた言い方が悪いけど)作られた一作がたまたま大ヒットを記録したから。
しかし、こういう作り方は、その時代というものを見るのにまことに役立つ。
今だから言えることではあるのだが、本作が作られたのは、これまでの朝鮮戦争の特需景気が終わった後、オイルショックを経て、国際的な経済戦争へと立ち上がった日本という国そのものをよく示していたと思う。
それまでアメリカの庇護下にあって(しかも1ドル360円という固定相場制で)ぬくぬくと商売をしてきた日本がようやく商売の世界の厳しさを知るに至り、そのショックを経てめきめきとその実力を示し始めた時代なのだ。商売に甘いことを言っちゃならない。薄利多売で質の良いのを売っているのだから、他の誰にも文句は言わせない!という強引な商売を始めた日本という国そのものがまさに“仁義なき戦い”を世界に対して始めた時代なのだから(この時代のやり方が後にジャパン・バッシングを呼ぶようになったが、戦いにあって、それこそが勲章だったのだ)。
自分の主張を通すためには義理人情など関係はない。むしろそう言うことを信じている人間を食い物にしてこそ本当に成り上がっていくのだ。この姿に当時のビジネスマンは痺れたのだと思う…つまり、この作品の主人公、そして最も感情移入されたのは、実は菅原文太演じる広能ではなく、姑息で常にいやらしい笑いを浮かべつつ、全てを手中にしてしまう金子信雄演じる山守の方ではなかったのだろうか?…事実、本作においてどちらが魅力的か?と言われると、私もそう思ってしまうくらいだから(笑)
もちろんだからといって、広能が魅力的じゃないか?と言われると、全く逆。この人の魅力も大変大きい。広能の役回りは、冷静な目で物語の推移を見ていて、その中で生き残りながらも、どこかに義理人情を信じたいという思いがあって、肝心なところで貧乏くじを引かされる役回り。古い任侠ものの主人公と新しいタイプの頭の良いやくざの特質を併せ持った存在。こう言うのが一番感情移入しやすい。
だから最後まで広能は山守に利用されっぱなしじゃない。兄弟分の坂井の葬儀をめちゃくちゃにした銃弾と共に決別の言葉を叩きつけるのだ。「弾丸はまだ残っとるがよ」と。彼の戦いはこれから始まるのだ。この姿も又、日本人がこれから鳴らねばならない姿だったはずなのだから。
そう。戦いはこれから始まる。その思いを持って劇場を後に出来るのが、当時の企業戦士にとっては最も重要なモチベーションだったのだから。 しかし、本作の造りは凄い。特にオープニングの雑然とした雰囲気がいきなり暴力と血によって一変する描写はゾクゾクするほどのすさまじさ。ポータブルカメラを多用したお陰でぶれが激しく、瞬間瞬間では何がなんだか分からず、ただ凄まじい音ばかり。時折ピントが合うと、それは歪みまくった人間の顔であったり、ちぎれた腕であったり、真っ赤な血であったりする。スタイリッシュに凝り固まった現代のカメラではやってはいけないとされている古い作りなのだが、その生々しさの迫力は今観てこそ凄まじさが分かる。現場での混乱をも演出にしてしまう深作欣二の実力が遺憾なく発揮された作品で、テーマと監督の技量が見事に噛み合った例だ。なるほどタランティーノが惚れ込むわけだな。
興が乗ったので、この話は仁義なき戦い 広島死闘篇(1973)に続かせていただこう。
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