「（いくら飲んだくれたときでも）ステージだけは空けたことない」とか言いながら、歌の途中で引っ込んで（吐きにいって）しまうとか。観客の中に自分とすぐ寝てくれる女を見つけるのが上手いとか（それはいっか）。ジーン（ギレンホール）が無抵抗に彼を受け入れてしまうところとか。彼自身はなんにも努力してないのに、チャンスが舞い込んでくるところとか。３年も曲作りを怠っていたのに、「才能」とやらでなんら苦悶なく曲を作れてしまうとか（良曲だったかどうかは別として）。極度のアルコール依存症をあっさり克服してしまうところとか。

　人生の本当の苦悩が描かれていないというか、主人公の人生に対し、映画の取っている視線が優しすぎる。だから、優しい気持ちになって観ればいい映画なんだと思う。だがカントリー音楽にさほど親しみのない者、またアメリカ社会における同音楽の文化的位置づけを知らんもんにとって、そういう気持ちになるのはちょっと難しかった。そういうことだと思う。

　逆に言うと、深刻さのないのがこの映画のいいところであろう。景色はきれいだったし、音楽も漠然と聞き流している分には悪くなかった。

70／100（10/08/01見）