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[コメント] ヒーローショー(2010/日)

井筒監督は陰湿な人間関係が大嫌いだから、精神をいたぶる軟弱な苛めを描かない。だから、外見と内面が見事に一致した単細胞青年が量産される。撮影スタジオのような昭和の熱気は大きな魅力だが、細部に丁寧さを欠く脚本に不満も多い。
shiono

**ネタバレ注意**
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福徳秀介だけが唯一、煮え切らない女々しさを抱えているが、それにしても十分に外交的だ。他の危ない男、チャラい男たちはそのようなルックスをしており、仁義の真似事のようなわかりやすい交渉と取引が序盤を飾る。

だがそれ以前、導入部のヒーローショー興行会社の描写に首を傾げる。仕事なんだからあんないい加減な仕切りはないでしょう。「ギガチェンジャー」版元からの縛りも厳しいはず。劇団内の人間関係も奇妙だ。こいつにかかわったら面倒なトラブルになるのはわかりそうなものなのに、桜木涼介の恋人をなぜ寝取る?桜井のほうが松永隼の恋人を寝取ったというなら話はわかるが、井筒監督は弱い者苛めは嫌いなんでしょう。あるいは女のほうから松永に色目を使ったということでもよい。これは濡れ場を騎乗位にするなどして見せることが可能だ。

公演の最中で喧嘩になるのはわかるにしても、客にばれないようにすれば現実味が増した。配管工の後藤淳平にしても、職人は施主の面前であんな態度はとらないよ。裏では文句も言うだろうけど。監督は、これは映画の見せ方なんだからいいんだ、というだろうけど、実際に真面目に仕事をしている若者たちの心に寄り添っているとは言い難い。

キャラクターが、そのルックス通りに軽薄な言動を重ねるのなら、細部を丁寧に作り込まなければ説得力が生まれてこない。頭の悪さにイライラする場面も多々あるが、だからこそ男気のある後藤の理性と、場を仕切る政治屋、林剛史のツートップで展開するリンチシーン、埋葬シーンが格段に面白い。人生の岐路から裏社会に一歩踏み出したばかりの男の脆さがある。

後半に入ると、またしても脚本の細部が気に入らない。瀕死の阿部亮平が脱走するとか、いやらしいユンボオペの中年とか、現住所ではない勝浦で消費者金融が金を貸すか?とか、6年会っていない子どもがすぐにあんなに懐くか?とか、未成年者略取はおおごとにならないのか?などなど、不自然な展開が次々に出てくる。しかもそれらは改善点がありそうなものばかり。脚本クレジットは複数名だが、上がってきたホンを井筒監督がじゃまくさい、とばかりに省略の手を入れたのだろうか。終盤の落合扶樹、米原幸佑のワゴン車迷走、末に交通事故というのはアホの一言。

商業邦画に背を向けた気概のある映画だし、後藤淳平を始めとした俳優陣に見るべきものはあるが、私が好む気質の映画ではなかった。せめて100分なら評価も変わったかもしれないが。

(評価:★3)

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