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[コメント] ミスタア・ロバーツ(1955/米)

太平洋戦争末期を扱うドタバタ戦記物。コメディとシリアスが明らかに分裂しており、コメディ自体も低調。フツーに失敗作だろう。ドクター・ロバートは関係ない。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







第二次大戦末期、太平洋上で就労している貨物船通称バケツ、危険地帯にトイレットペーパーと歯磨き粉を運ぶ。沖に戦艦の機動部隊を見る夕暮れ美しいOP。これ見て戦地への想いを募らせる軍隊志望ヘンリー・フォンダは中尉で中間管理職。ここにいても戦争に参加していると説く軍医のウィリアム・パウエルと喧嘩。

もう1年も上陸していないというとんでもない職場環境で、船員はグダグダ。集団仮病とか双眼鏡で美女とかギャグが連ねられるがどれも面白くなくて映画自体が疲れているかのようだ。ポリネシアの楽園、リンボ諸島に上陸許可。カヌーで美女軍がお出迎えという艦長ジェームズ・キャグニーは上陸禁止。フォンダと取引して船員たちは1年振りに上陸するが、乱暴起こしたと艦に次々報告が来て、ギャグニーは慌てて出港する。この乱暴の描写はなく、艦長の狂言なのかとも疑わされるがはっきりしない。全般に船室での対話シーンが多くて舞台劇のような印象がある。

片脚を引いて歩く艦長のジェームズ・キャグニーはいつもヒステリックに怒って孤立しているだけで、魅力の一片も感じられない。ただ叩き上げだと自分語りをするだけで放り出されている。映画の設定は、嫉妬深い艦長とか南方の島の美女軍団とか、『戦艦バウンティ号の叛乱』(35)と随分被るのだが、船長チャールズ・ロートンのような悪の魅力をギャグニーは決定的に欠いている。彼が大事にしているヤシの木の盆栽も何の象徴なのか判らず仕舞いになる。

後半、フォンダは出世のために艦長と取引して、毎週出していた転属願いを止める。そして部下を処分したのを後悔し(この描写もない)、欧州戦争終結の報で黄昏れる(英国の戦勝パレードがラジオで中継されて、船員は国王が何をしたとボヤイテいる)。

続いてラジオは米大統領らしき演説を報じる。「今日は戦争に勝ちましたが、戦いはまだまだ続きます。我々の本当の敵は何なのか。野望、冷酷、傲慢、そして愚かしさ、それが敵なのです。敵を撃滅すること、はびこる悪を葬り去ること、それが急務なのです」。甲板でひとりこれを聞くフォンダは両の手を握りこぶしにして立ち上がり、マーチに乗って行進。フォードらしく、これを映画はひとつのクライマックスにしている。

そしてフォンダは艦長の宝物であるヤシの盆栽を海に放り込み、これ発見して艦長は戦闘配備の平凡なドタバタ。艦長は興奮して倒れ船員たちは満足。船員たちがフォンダに代わって転属願い書いていたというオチ。

ジャック・レモンの出世作らしいが、看護兵のブロンド狙いとか、出鱈目なカクテルとか、戦勝祝いに洗濯室で爆竹仕掛けて泡だらけとか、どのギャグも低調。どれもこれも上手く歯車が合っていない。

フォンダに転属命令の終盤。沖縄に参戦、リヴィングストン号に乗れると云っている。そして後日、沖縄戦参戦の手紙が届く。「戦争には退屈という見えない敵がいる。その退屈に屈服しない者こそ最強の男なのだ」と教訓が述べられるが、それならフォンダは輸送艦で最後まで職務を貫く方が説得的だっただろうに。同時に神風特攻隊に突っ込まれて戦死の報が一緒に届きシリアスになるのに、船員たちはまたヤシの木を海中投下してのにコメディにして、なんじゃこりゃで映画は終わる。

(評価:★2)

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