[コメント] セント・アンナの奇跡(2008/米)
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戦争は人間界の縮図である。黒人兵たちにとっての第二次大戦に於いて白人は同国民であっても味方ではなかった。それはイタリア人、ドイツ人であっても同じことであり、敵国民である以前に、まず異民族であったのだ。そんな何者をも信じられない状況下にあって、せめて信じられるものは無垢な子供であった、というのも肯ける話である。イタリア人の子供の夢物語の中では、大柄な黒人兵は「チョコレートで出来た巨人」というメルヘンのキャラクターであり、だからこそ偏見なしに頼れた。そしてそれが破綻し、主人公の戦友達が全滅してしまって暫くして、成長した少年は主人公を大人のやり方で救うことになる。この筋書きは浪花節的ではあるが、それゆえに日本人の心情も揺さぶり得る。
スパイク・リーの新境地がこれだ、というのも肯ける話だろう。主人公達黒人兵のみならず、彼らを巡る老若男女は人種、思想を問わぬ「人間」として描かれる。コスモポリタンとしてリーが開眼した、とここで見るのも強ち間違いではないだろう。ナチ士官すら、部下の独断での蛮行に怒り、主人公に護身の為の拳銃を渡して立ち去るのだ。悪いのは民族でも主義主張でもない。個々人だ。リーはそれを充分に理解している。だからこそアメリカを、イタリアを、ドイツを冷静な目で見つめられるのだ。彼にとってこの作品は良き分岐点になったように思う。
いずれ、スパイク・リーは語ってくれるだろう。黒人の戦いだけではない、何事もない平和の物語を。
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