[コメント] おくりびと(2008/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
面白みに欠けるとすら思うほど、すごーく起承転結がはっきりしていて、でもだからこそ安心して見ていられる何かがあったのかなと思います。(そしてだからこそアカデミー外国語映画賞を受賞出来たのかなとも思う。)もうここまで来ると、良い映画・悪い映画の域を超えて、好きか嫌いか、が判断基準になるんじゃないかと思います。
例えばキャスティングにしたって、個人的にはものすごく気に入らない。分かりやすすぎだし、全然面白くない。唯一危うい役どころと言えば、妻だと私は思うんだけど、ここにまたものすごくベタな配役をするものだから、脱力してしまいました。この物語に唯一波風を立たせる事の出来る重要な役なのに、広末涼子はないだろと。まぁこの妻という役は難役だったと思う。演じるのが一番難しい役じゃないかとすら思う。だって鑑賞者のほとんどがこの"妻"目線なのだから。だから彼女が上手く演じてくれなきゃ共感も出来ないし、狙い目なはずの罪悪感すら湧かない。
私は広末があまりにもアレな演技だったので、自分を棚に上げて思わず説教すらしたくなりました。「なんだその穢らわしいって言葉は!謝れ!」とか「子供に胸を張って言える職業って何だよ!それって業種の問題か?」とか「お前みたいなヤツが子供を育てるからイジメがなくならないんだ!」とか、もう反感しか抱けないのね。無知なオンナノコが駄々をこねてるようにしか見えないんだもの。でもそれって映画的に非常にマズイですよね。だからこそ、他はどうであれここだけは演技の上手い人を置くべきだったと。私はそう思いました。
…という広末叩きはもう可愛そうなのでやめるとしても、山崎努も余貴美子も、素人にだって思いつくキャスティングだぞ、コレ。こんな安直さってアリなのか?と思う一方で、でもそういうところが"安心して見ていられる"心地よさに繋がるのも確かなんだよなーと思ってみたり。
個々のエピソードにしたってそう。ベタすぎて嫌になるものばかり。風呂屋のばーさんのスカーフにしたって、はいはい分かってますよと思いつつ、不覚にも嗚咽が漏れましたよ私(うちの近所だけかも知れませんが、自分家の含め、ばーさんのスカーフ率が異様に高いのが原因かと思われます)。あと実父の手に握られていた石なんてもう読めすぎて勘弁してくれーって思いながら目から滝なんですよ。
この映画には「冒険心」てものが全く感じられないんですよね。新しい事に挑戦するとか、もっと深みを探ろうとか、そういう気概がほとんどないように思う。表層的とでも言うんでしょうか。それなのにいつの間にか作品に乗せられちゃってるんですよ。題材が題材なだけに、卑怯だぞ!と反発する心もあるんですが、そんな心に反して、目から滝なんです。
作品に心動かされた訳じゃないとも思うんです。誰だって人の死に直面した遺族を見て、そこに自分を投影せずにはいられないはず。だからこの涙はこの作品に対する涙じゃない気がするんです。でもね、タブーに踏み込んだ作品ではあると思うんです。先に「冒険心」がないと書きましたが、この作品を映画化した事だけは冒険と言っていいのではないでしょうか。そしてその冒険は、ある意味では大成功をおさめた訳です。
話はそれますが、うちの父親は花を扱う仕事をしています。なので葬儀場の祭壇も月に何度も装飾しているんですが、その父親がこの映画を観たいと言うので一緒に観た(座った席は何故かバラバラでしたが)。父親は父親なりに、きっと思う事があったハズ。でもそれはなんだか聞けなかったし、父親も鑑賞後何も語らなかった。ただ始まる前に渡したティッシュ、要らない要らないと言っていたくせに、終わってから貰っておいて良かったと言われました。自分も「私はお父さんの仕事、胸を張って言えるぞ」って言いたかったけど、気恥ずかしくてやっぱり声に出しては言えなかった。
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09.03.30記(09.03.28劇場鑑賞)
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