いや実際、真っ暗な部屋で一人でこれを見ている最中、もう現実に帰ってこられないのではないかと不安になった。ひたすら象徴的な映像の波は理解することを拒むようになだれ込み、私は訳が分からぬまま海の果てへと押し流される。最終的に世界は救われ少年少女も結ばれたようではあるのだが、その経緯は何も分からず、ただただ鮮やかな漁村の景色を背景に流れる例のテーマ曲。

放心しつつも思い出したのは、寺山修司の『田園に死す』だった。映像のインパクトで理屈を押し切る点で『田園』と『ポニョ』は非常に似ている。ただし前者が中毒性の功罪を理解する一部の人間に観賞されるカルト作品であるのに対して、この『ポニョ』は国民的幼児観賞推奨作品とも言える扱いでこの世に公開されてしまったのだ。私は子供はいないが、仮に自分の子供と本作を見た後、子供に向かって内容の解釈を説明する自信がない。

なんだか分からない作品だが、なんだか分からない迫力だけは満ち溢れてたし、そんななんだか分からない作品を日本の超巨匠が生み出して超大儲けしたということは映画界の奇跡であり現代日本の象徴的な出来事であると思うので、★５つ付けとく。これは賞賛の★５つではなく、もはや畏れの★５つだ。