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[コメント] 悪の力(1948/米)

聞きしに勝る強い造型。これがエイブラハム・ポロンスキーの監督デビュー作だ。この後、第二作の『夕陽に向って走れ』が世に出るまで、約20年間かかることになる。なんという大きな機会損失だろう(映画ファンにとって)。
ゑぎ

 それでは、設定や梗概には極力触れずに、強い造型、特筆すべき画面の例をあげていこう。冒頭近く、主人公で弁護士のジョー−ジョン・ガーフィールドが、パートナーというか彼が専任のように支援する大物タッカー−ロイ・ロバーツと会話するシーン。まずは、こゝの切り返しの端正さに目を瞠る。続く、ジョーが兄のリオ−トーマス・ゴメスに賭博の世界から足を洗うよう説得する場面。こゝはマシンガントークの迫力が凄い。いやこの場面の導入部で異なる階段の俯瞰仰角ショットを繋いだカッティングセンスにも感嘆する。以降もラストまで階段のシーンがいくつも出てきて、本作も階段の映画と云いたくなる。

 また、このジョーとリオの場面で、何とも曰くありげにリオの秘書ドリス−ビアトリス・ピアソンを登場させ、一瞬でこの映画のヒロインであることを感得させてしまう。以降、ギャングに通じるガーフィールドとその兄の不穏な状況を描く中で、ドリスがもたらす清涼効果が半端ない。ジョーに向かって不信感を露わにし、しかめっ面で対応していたと思っていたら、一瞬で無邪気な笑顔を見せたりする。自動車の後部座席でのジョーとドリスの会話シーン。街の花屋で花束を買ってドリスに渡すジョー。エレベータホールでドリスの帽子を取ってなかなか返さないジョー。最後はドリスをマントルピースの上に座らせるという演出の可愛らしさ。

 そして2つの最強度の暴力シーン。一つはリオの帳簿係バウアーがリオを呼び出したレストランのシーンだ。突然複数人の男が押し入って来、問答無用で連れて行かれる恐怖感。もう一つが、クライマックス、ジョーとタッカー、タッカーに対抗するフィコ−ポール・フィックスの3人が対決するオフィスの場面。ジョーがフィコをいきなり殴り、電灯も消え、一瞬にして三すくみの死闘に変化する演出に呆然とする。

 あとは出番は少ないが、タッカー夫人役のマリー・ウィンザーがジョー−ガーフィールドに絡んできて絶妙に妖艶な場面を作るのと、ジョーたちを狙う新任の特別検察官ということで、ホールという名前が度々出て来るが、結局ラストまで画面に出現しない、という扱いもシビれる構成だ。これら含めて、並外れた犯罪映画であることは間違いない。

#助監督はロバート・アルドリッチ

#検察官ホール役として、アーサー・オコンネルが記載されている映画サイトもあるが、ホールのシーン自体がないと思った。撮影されたがカットされたのか。

(評価:★4)

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