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[コメント] 扉の影の秘密(1948/米)

本作のラングもクオリティの高いシーンの連続。全くもって圧倒され続ける。例えば、冒頭近くのメキシコ旅行の場面。市場を横移動してジョーン・ベネット−シリアとナタリー・シェイファー−ポッター夫人を登場させる。
ゑぎ

 すぐにドンデン(180度のカメラ位置転換)して見せ、画面外から悲鳴。すかさず2人のトラックバックとドリー前進移動。ナイフで戦う現地の男たちと酔いしれている女性を映したと思うと、誰かの視線。ベネットを見る男はマイケル・レッドグレーヴだ。続いてベネットからゆっくり引くショットを繋げる。一気に畳みかけるカッコいいシーン造型だ。この後、ベネット−シリアとレッドグレーヴ−マークがテーブル席で会話する場面での、マークの声が聞こえなくなり、シリアが独白で語る演出と2人の切り返し。あっと云う間に結婚した2人がハンモックに並んで寝る場面での、ミタメでメキシコらしい建物のバルコニーをパンティルトしたショット。またこのシーンのベネットのブラレスの衣装が実にセクシーだ。

 舞台がマークの邸宅−米国東部、レヴェンダー・フォールズという町−に移ってからは、彼の前妻、亡きエレノアの影がつきまとう『レベッカ』のような展開かと思わせられる。マークの姉キャロライン−アン・リヴェールがダンヴァース夫人−ジュディス・アンダーソンみたいな位置づけかと。他にもマークの秘書のロビー−バーバラ・オニールも得体が知れないキャラ。結局、ジュディス・アンダーソンの位置づけは、リヴェールとオニールに分散してしまい、エレノアは、レベッカとは程遠い存在感しか発揮しないが、その代わり、『レベッカ』と甲乙つけ難いぐらい、屋敷の美術装置は威力を発揮する。設定として、マークは「部屋のコレクション」という異常な趣味を持っているのだ。

 部屋は7つ。これをパーティで集まった人々に披露するシーケンスが中盤の見どころの一つだ。ただし7番目の部屋だけは秘密にされる。これが本作のタイトルを現しているのだろう(邦題も原題も同じようなニュアンス)。中盤以降は、ヒロインのベネットが、この秘密を暴くプロットになっていくのだが、矢張り、タイトルにあるドアが重要なギミックになる。

 とういうワケで、当然ながら本作はドアの映画と云っても過言ではないぐらいだが、他にも強い画面を導く道具立てが沢山あるので、列挙しておこう。ドアに付随するものとしての鍵。ドアノブ。ドアの次に重要なのは、まずは花だろう。特にライラック。あと赤いカーネーションとダフォディル(喇叭水仙)。家屋の装置としては、窓と階段がある。部屋の中には蝋燭。鏡。また、顔を隠す物として、あるいは首に巻く物としてのスカーフ。そして雨や霧。ベネットが屋敷を逃げ出すシーンにおける霧の造型は本作中でも特筆すべき画面だろう。霧の林の奥から出現する人影のロングショット。こゝで長い暗転を挟み、レッドグレーヴの一人芝居(裁判シーン)が繋がれる趣向も実に面白い。もう具体的に指摘はしないが、随所で現れる広い屋敷内の引いたショット、仰角俯瞰の縦横無尽なカメラ ポジションとカッティングもほとんど完璧に思える。プロット構成には未整理な点や、豊かな道具立てをイマイチ活用しないといった点も指摘できるとは思うが、ただし、エピローグは良いと思う。一瞬、夢オチ、もっと云えば、またベネットで夢オチかと思わせるのだ。

(評価:★4)

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