[コメント] リトル・ミス・サンシャイン(2006/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
決して構成が凝っている映画ではないのです。良くあるロードムービーの形、良くあるホームドラマの形。
ただ、自信過剰の父親、ときどきヒステリックな母親、ヘロイン中毒のパンピー祖父、ニーチェを崇拝する黙り込んだ息子、自殺未遂をしたゲイの伯父、そしてミスコン出場を目指す娘と、キャラクターの設定にユニーク以上の魅力があり、脚本もそれをすごく生かしている。あり得ないようなエピソードでも、笑って済ませられるほどで、きっちりキャラクターを使っている。
コメディとして楽しませてくれつつ、最後は暖かさを滲ませてくれるのだから、やはり巧さを感じざるを得ない映画だ。
この映画には、ハリウッド映画的なクライマックスがない。娘がミスコンに優勝して…、といった夢を掴む話ではない。家族が進むハイウェイの道のように、最初から最後まで平坦に映画は進み、クライマックスでもそこまでの盛り上がりを見せるわけではない。
山場がないまま映画は終わるのだが、ミスコンが終わって家族で家に帰るために、彼らが今までしてきたように、黄色いバスをみんなで押しながらエンジンをかけて、壊れたクラクションが鳴りっぱなしのままバスが走っていく様子を眺めていたら、なんだかすごく込み上げてくるものがあった。
「なんだろう、この暖かさ…」という感覚が急に芽生えたのだ。コメディで笑わせていただけのように見えて、しっかりと家族の絆の再生を、一観客である僕の心に根付かせていたようだ。この、知らぬ間に絆を植え付けられていたことが、すごく印象的なのである。
ロードムービーは道に準えて登場人物の成長を描くものなので、旅が進むにつれてキャラクターが変化していく様を観ているこちらも同時に体感するが、この映画は目に見えた成長をみんながみんなしているわけではない。しかし、家族の絆だけは、切っても切れないものに知らぬ間に成長していたのである。ホームドラマとして、言葉では語られない、本当の暖かさを感じました。
勝ち負けに躍起になってだけ生きる人生なんて面白いの? つまらない人生かもしれないけど、それなら楽しく、仲間とともに生きた方が幸せじゃないか、とポジティブに謳う。実際彼らは型破りなことをする勇気があり、それによって勝つかも負けるかもしれないが、行いに後悔はしないだろう。
……楽しく、そして暖かい映画だった。
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