[コメント] 群衆(1928/米)
このオフィスについては、退社時のシーンで出て来る手洗い場の広さにも驚かされる。コニーアイランドでのブラインドデートのシーンでも、人だらけを強調する。はとバスのような、屋根なしバスから群衆の中の、ピエロのメイクをしたサンドイッチマン(ボールのジャグリングをしている)を見て、嘲笑するという伏線も挿入される。あるいは、中盤の病院の、だだっ広い病室。こゝもドリーで前進移動して見せる。そして終盤の求人者たちのモブシーンや、ショーの客席の上を俯瞰で移動するカット。
主人公の二人、ジェームズ・マーレイとエレノア・ボードマンが新婚旅行で行く、ナイアガラの滝のシーン。滝の側で、横臥して抱き合いキスをする。「君は世界で一番美しい。あの滝のように」という字幕が入る。本当に美しいシーンだ。それから1年ぐらい経った4月の場面。アパートの設備(洗面所の配管、ドア、ベッドなど)が壊れ出し、二人ともイライラしている。喧嘩してマーレイが「もう出て行く」と云って部屋を出る。出て行ったドアを悲痛な表情で見るボードマン。このカットが長い。けれど胸締め付けられる。窓へ行くボードマン。窓と通りの仰角俯瞰切り返し。戻って来たマーレイに、ボードマンは「内緒にしていたことが」。この後、字幕はないが、マーレイは、がらりと変わって、妻をいたわり出すのだ。たまらない演出の呼吸。
そして、最も胸を打つ場面は、失業したマーレイが、妻のボードマンから「死ねばいい」と云われ、息子を連れて、汽車の跨線橋から飛び降りようとするシーンだろう。私は涙なしでは見られない。キング・ヴィダーは、トーキー以降はパラノイアックな癖のある映画が多いように思うのだが(勿論、その強さが素晴らしいのだが)、サイレント期の作品は、もうこれ以上ないほどの繊細な演出を披露する。
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