[コメント] 変身(2005/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
湖畔の緑に、ガラスのように割れる真赤な画面が挿入される、オープニング・タイトル。この色彩感覚からして、何か禍々しい空気が漂う。実際、序盤の空々しい爽やか恋愛シーン中での、純一(玉木宏)が描きかけている恵(蒼井優)の肖像画や、二人がレストランで互いに笑い合う、イカ墨の付いた歯も、病院のシーンに登場するホルマリン漬けの脳片と同じくらい不気味な印象を与えてくる。
本来、穏やかで幸福な恋と後の悲劇との対比が主題である筈のこの映画は、その「光」の部分にさえ、最初から気味の悪い黒さが漂っている。物語の結末は、純一が、「闇」の人格である瞬介(松田悟)に完全に精神を奪われてしまう前に、本来の自分と恵との絆を選択する、という形になっているのだから、尚更、この「光」の場面の演出がああした気色悪いものになっているのは致命的。
演出も編集も脚本も、どうしようもなく生硬。そのせいで、玉木と蒼井が、登場人物に血肉を与えようと熱演していても、何か棒読みの台詞のような印象を受ける事が多々。日本で唐突に銃が二度も登場してくるいい加減さに見られるような、虚構としての映画のお約束で繋いでいけば観客は納得して当然であるかのような、嘗めた安易さが全篇を支配する。
加えて、更に個人的な感想を言わせてもらえば、純情素朴な純一と恵の二人などより、些細な事に敏感に反応して、早々に殺気立つ瞬介の方が、作り物ではない生々しい人間性が感じられ、共感し易い。恵は、どこそこの食べ物の何が美味しかったという話を延々と喋り続けたり、通俗的な泣かせ系の映画の話ではしゃいだりしてばかりいる女。彼女が着ていたワンピースの色が絵具で出せない、と悩む純一に「私があんな色のを着てたから」と答え、それに純一が「どうしてそう低次元な話に持っていくんだ!」とブチギレるのにも、つい共感してしまう。恵が画材屋にワンピースの布を見せて、その色の絵具を注文するのも、自分には脳裏に描いた色が作れないのだと一方的に決めつけられたような気がして、半ば腹の立つものがある(笑)。純一=瞬介が弾くピアノを床に叩きつけて破壊する恵の行為も、これは首を絞められて当然とさえ感じられ、また、そうしたらしたで、「貴方になら殺されてもいい」と従順な事を言うのにも、却って苛立ちを倍化させられる……。
共感できる箇所が、物語の方向性と完全にずれてしまうので、感動などしようがない。最後に絵が完成した時も、瞬介の神経質な完璧主義のおかげで、下手の横好き的な絵が多少はましになったような印象がある。最後の拳銃自殺も、瞬介が殺されて気の毒とさえ、若干感じさせられてしまう。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (0 人) | 投票はまだありません |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。