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[コメント] 仮面ライダー THE FIRST(2005/日)

表情や感情を仮面に隠す、おお、絢爛たるマスカー・ワールド。死にゆく怪人たちの秘めた思いは、石ノ森章太郎よりそのまま井上敏樹に受け継がれた!!
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







仮面ライダーが変身しない。一世を風靡したあの「変身!」の掛け声が聞こえない、ここはTVではないまぎれもない石ノ森章太郎の『仮面ライダー』世界。敵もまた仮面の人間たちであるがゆえに、その悲劇性はいやが上にも高まり、コミカルさは希薄になる。

晴彦(ウエンツ瑛士)と美代子(小林涼子)のエピソードは特に鮮烈に脳髄に焼き付けられる。自分が貧乏に負けて朝日ソノラマ版コミックス全2巻を高価で売り飛ばしていなければ、その名を聞いただけで「コブラ男と蛇姫メドゥサ」だと判っていた筈なのだ。そして石ノ森原作でも苦い余韻の残ったあの結末は、井上脚本で暴走する。最初は病気ゆえに捨て鉢な少年・晴彦に、「ボランティア」だと言って近づきこまめに世話を焼く美代子は確かにウットウしかった。だが、観ているうちにその童顔が愛らしく、その行動がいじらしく見えてくる。これはまさしく、『仮面ライダー555』のはぐれオルフェノクたちの再来だ。ただひたむきに生きるために他者を傷つけずにおられぬ異形の若者たち。彼らにも悲しみがあり、喜びがあり、この物語の主軸に据えられる「いのち」がある。その完全燃焼が死によってしか成就しないこの挿話は、主役とは関係のないところで花開き、はかなくも散華する。

本郷と一文字のことは、この映画を観たあなたの見た通りだ。人類の自由と平和のためでなく、愛の成立のため戦う仮面ライダーたちには抜け忍の悲しさがある。こんなところで比較論も何なのだが、近頃のアニメや特撮のリメイクでここまでに成功した例があっただろうか?ええ、変身ポーズが戦いの口火を切る構えとなる点、そして死神博士の不自然さのなさにも泣けましたよ。自分はここのところのライダーシリーズに幻滅して数作ほど観ていないのだが、ここまでリリシズムに溢れた作品を提示されて、今後詰まらぬ作品を出してきたら承知せんぞ、と敢えてこの「原点」を越える作品の出現を期待せずにはおられないのだ。

(評価:★5)

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