[コメント] 死滅の谷(1921/独)
映画を見終った人むけのレビューです。
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全て字幕で先に物語を示したうえで映像が始まるという話法が採用されており、子供向け映画みたいに判りやすい。「6幕から成るドイツ民話」「主を讃えよ」なる字幕で始まる。
冒頭の悪魔ベルンハルト・ゲッケの登場はムルナウみたいで素敵なのだが、買収した土地囲った壁は近年の安普請な壁紙みたいで平凡でいけない。恋人を求めて壁抜けの3〜5幕、異郷の物語を語る3本の蝋燭は「主を讃えよ」作品らしくイスラムやらムーア人やらの異邦人を奇譚に託して適当に茶化しているようなものだ。傑作は第5幕の中国扁で茶化し方が堂に入っており、太って爪の長い皇帝の異形は喜劇的に突き抜けており、部下たちの「豚のような私」みたいな自己卑下もの凄く、足元からミニチュアが行進する贈り物のショットは本作のベストだろう。しかし作品がシリアスに終盤になっていきなりユーモア描写が始まるのは、話法として上等とは思われない。
そんなこんなで死神との最後の取引、彼の命と引き換えに別の魂をくれと云われたリル・ダゴファーは奔走、老人やら浮浪者やらに「命をください」「もう生きていても仕方ないでしょ」「もし人生にお疲れなら、お慈悲をもって私に命を下さいませんか」と懇願して廻って、当然ながらことごとく追い返されるのが突然のリアリズムでもの凄い。浮浪者に向かって、生きていても仕方ないでしょうと云う件など異様なもので、続く赤ん坊救って自分が焼かれる火事よりもずっと残酷だ。いったい、こんな言葉を喋ったら罰が当たるのではないのだろうか、という処で最後まで救済はなく、寄る辺ない観客は冒頭に戻って主を讃えたに違いない。
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