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[コメント] チャイナタウン(1974/米)

ニコルソンとチャイナタウン…いかがわしさの自乗ですな。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 雰囲気はまさに映画で出せる最大限のハードボイルド調を保っており、それこそ『マルタの鷹』(1941)や『三つ数えろ』(1946)につながる正統的なハードボイルド大作と言って良いだろう。手放しで褒めたいほどの雰囲気の良さを保ってる。舞台描写の達人ポランスキー監督の面目躍如と言ったところ。

 特に映画におけるハードボイルド作というのは、かなり特異な位置づけにあるだろう。

 普通の映画、殊に探偵を主人公にした映画は結構多いが、その大部分は推理やアクション、破綻のない物語に集約されていく。一方ハードボイルドと呼ばれている作品の大部分はそれらの要素をことごとく外す事が多いのだ。上記の要素を併せ持つものもあるものの、多くは難解なストーリーと、到底推理とは言えない偶然で物事が明らかになるという突飛さ。主人公が別段強くはないが、どんなにボロボロにされても意地を貫き通す。ヒロインは必ず性格悪い。など、共通性はある(この辺はフィルム・ノワールにも通じるが)。緻密なプロットこそが重要と考えるならば、単なる駄作になりかねない(実際、ハードボイルドの名作というのが少ないのは、これらの要素が一つでもマイナスに働くと本当に面白くなくなってしまうのだ。『ハメット』(1982)が良い例だろう)。これら、通常の映画ではマイナス要素と見られるものを雰囲気としてまとめ上げた時、初めてその作品は正当な評価を受けるに足るものと成り得る。

 本作はまさにそれがぴったりとはまった作品で、上記の条件を見事にクリアした上で一つ一つの魅力を研ぎ澄ましている事が分かる…テンポは良いものの、本当にストーリーとか設定とか観てる側を完璧に置いてけぼりにしてくれ、何が何だか。と言う感じ。実際、表題でもあり、後半の舞台でもあるチャイナタウンは一体何の意味が?意外とも言える虚しい終わり方も含め、話自体は凄く消化不良な印象(ハッピーエンドで終わる脚本を、全く逆にしたのはポランスキーによるものとか)。

 だけど、雰囲気とキャラクタの描写は無茶苦茶に良い。前半で鼻を切られ、後ずーっと鼻に絆創膏を貼り続けるニコルソンの格好悪い格好良さよ。この人キれた演技が多いけど、こういう妙なストイックさを持つ役も見事にはまってるよ。そしてファム・ファタール役のダナウェイもはまり役。この人は気の強い役が本当に良く合うよ。それに色彩を抑えた街の描写も見事。前半の赤茶けた描写と、後半の薄暮が似合う怪しげなチャイナタウンの対比はほとんど名人芸とさえ言える。

 ポランスキー監督作品には他に純粋なハードボイルドと言える作品は無いはずだけど、見事なはまり具合を見せてくれてる。ポランスキー作品は結構苦手なものも多いんだけど、本作ははまった。

(評価:★4)

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