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[コメント] オールド・ボーイ(2003/韓国)

冒頭からラストまで一気に見せ切る演出は見事で、終始脳みそに適度な刺激を与えられ続ける幸せな映画体験。だけど、物語はまったく心を打たないのでした。
林田乃丞

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 2003年といえば日本のギャルゲー界では「姉、ちゃんとしようよっ!」の発売を機に空前の「姉萌えブーム」が巻き起こり、もはや私たちにとって近親相姦に対する禁忌など何処吹く風なのだが、それはまぁ関係ない。ラストシーンで自分の記憶を消して実の娘と恋人として添い遂げんとする物語は着地点を誤っているような気がしないでもないが、それも実はあまり関係がない。

 むしろ、ユ・ジテの演じた敵役のキャラクターが成立してないのが、物語に入り込めなかった原因かと思う。

 彼が復讐を決意したのは、おそらく主人公が姉に関する噂を広めたことを知ったときだろう。映画時間の20年くらい前ということになる。そのときから、彼は復讐だけを生きがいに生きてきたはずだ。

 それにしては、この男は社会的に成功しすぎているのだ。彼が選んだ復讐の方法というのは明らかに「莫大な金」がなければ不可能な方法である。ということは、彼が金を持っていることが物語の根幹を成しているということだ。物語の根幹だからこそ、「金持ち」という設定のバックボーンが希薄になると登場人物のパーソナリティは揺らいでしまう。彼の日常がまったく見えないので、復讐を思い続けた20年の重みが感じられない。

 だって、主人公が監禁され始めたのは30歳前後のときだから、ユ・ジテは20代の中盤〜後半で「監禁屋」を15年も動かして、しかも娘を養い続けるだけの金を持ってたってことになるのよ。単なる片田舎の高校生がどうやって10年かそこらでそんな富を築くのよって。彼には絶対に復讐を果たさなければならなかったという「執念」があったはずなのだけれど、彼の復讐の「元手」となるお金の出所が不明なことで、彼の「執念」にさえもリアリティを与えることができていないと思うのだ。復讐の「執念」にリアリティが出せなければ、復讐劇は成り立たない。

 演者は主演の3人とも迫力満点で素晴らしかったし演出も非常に好みなのだけれど、脚本的にもうひとつツメが甘かったという印象です。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)けにろん[*] ina

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