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[コメント] 沙羅の門(1964/日)

白い花がいっぱい咲いているショット。花はタイトルにある沙羅の花。平家物語の冒頭(2文目)で出て来る花だ。寺の門のそばに咲いている。水辺の風景は琵琶湖。後のシーンで、寺の場所は大津市和邇(わに)と分かる。
ゑぎ

 寺の中の居室で朝起きた千賀子(少女時代)。誰もいない。本堂などを走って寺を出、道路をまた走る。後景に湖。病院に着くと、おっさん(和尚さん)の森繁久彌と隣人(お手伝いさん?)の菅井きんがいる。お母ちゃんが死んだ、と森繁が云う。ちなみに、ラストシーンは、この冒頭の走る千賀子に呼応するように、菅井きんが走って寺の中に入り、寺の中を走り回るシーンだ。久松静児らしい円環処理だと思う。また、千賀子の母親−加藤治子は死に顔と遺影と2回ぐらい短い回想シーンだけの出番。

 病院の次に、宴会準備の場面が繋がれるので、てっきり葬式のシーンかと思っていたら、森繁が再婚する結婚式。近くの寺の住職か、遠藤辰雄田武謙三の登場。結婚と云っても、籍は入れない、とか云っているので疑問に思う。森繁の後添えは草笛光子だ。若くて綺麗な草笛を見てソワソワしている森繁。その夜、草笛は、千賀子にお母さんじゃなくて、お姉ちゃんになってあげると云う。そのすぐ後、千賀子は森繁と草笛の寝間の様子を覗いてしまう。艶めかしい声。

 そして、千賀子は京都の大学生になり、団令子にリレーする。彼女もこの頃が一番綺麗な時期かも知れない。子供のときに親の交合を見てしまったことが、トラウマになっているかと思うと、その逆で、団は奔放な女性になっている。最初の恋人は船戸順。寺の2階にある下宿先(多分父親のコネで借りている部屋だろう)で抱き合う。これは、森繁に伝わるだろうと思う。団は船戸を草笛に引き合わせるが、それから一か月もしない内に、今度は、別れる、嫌いになった、と草笛に云いに来る。お腹にやや。堕胎費用(確か5千円)を借りるのだ。団は草笛をずっと、お姉ちゃんと呼んでおり、彼女を頼りにしている関係が描かれる。

 2番目の男は、ビアガーテンのバイト中に知り合った客の木村功。二人の会話で、和邇から見た比良山は、夏より秋、秋より冬の方がいい、という科白がある。初めてのデートは名神高速をドライブ。彦根の旅館の場面では、琵琶湖と対岸の和邇を見る。2人とも浴衣姿。こゝで初めて、妻子があると云う木村。でも結婚したいと。木村は団を押し倒すが、泣きながら、自分のやりたいようにできる男に生まれたかった、と云うのを聞き、何もできなくなる。さらに、大文字の送り火の夜、木村が団の部屋に来て迫る場面の迫力も特記すべきだろう。奥さんも娘さんも、この大文字を見てる、と云う科白が良く、2人の情交シーンは割愛され、大文字の炎の現場、火床(点火した積み木)のショットが挿入されるのも良い処理だと思う。木村とは結局何も無かったかもしれない。このあたりは曖昧な描写だ。

 そして翌日だろう、続けざまに、森繁がいきなり団の部屋にやって来て意見をし始めるので、親子の修羅場になるシーンが来る。思いの丈を云う団。禅宗が世襲制でないことと、内縁の妻であれば(籍を入れないでいれば)、女人を断っていることになる、という矛盾を暴き立て、色と欲にまみれたお父ちゃんに、意見される筋合いはない、と云い切る。しかし、森繁にしても団にしても、色欲を決して悪とみなさず(というか全否定せず)、基本的に肯定している(というか、人間として、生き物として、どうしようもないものだとみなしている)ところは一致している、というのは、一本筋が通っている。

 こゝからの梗概に関わることは記述しないが、終盤になって登場する、京都の本部の高僧−宮口精二の存在感は特筆しておきたい。静かな口調だが、遠藤辰雄を厳しく叱責するシーンがいい。また、エンディングは虚しさも迫るが、団と草笛の揺るぎない絆が一貫して描かれているのは良いところだろう。女性の力強い生命力も印象付けられる。

#備忘でその他の配役等を記述します

 森繁と草笛の祝言のシーンで出て来る酒屋は頭師孝雄。雄琴温泉のシーン。団と船戸の遊び仲間の中に分厚いメガネの加藤春哉がいる。盆の繁忙期に森繁が雇う、アルバイトの若いお坊さんは細谷清

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