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[コメント] ロスト・メモリーズ(2002/韓国)

なかなか根性の入った、韓国から日本に放ったSF大(怪?)作。
死ぬまでシネマ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







安重根の伊藤博文暗殺失敗! 捻じ曲がってゆくその後の歴史! 日本語ネオンがビンビンのソウル! 李瞬臣の代わりに豊臣秀吉の馬像が市街を睥睨! 『猿の惑星』(T.バートンver.)のラストシーンの百倍刺戟的な導入部で、俺のSF魂はビンビン来てしまった。仲村トオルのふにゃけたイメージは吹っ飛んで「こいつは只事でないかも」と襟を正した。

勿論、こいつは日本人の隠れた欲情という危険極まりないスパイスを利かせているのである。朝鮮半島はおろか満州まで日本に併合し、アイヌ民族と同じ様に姓氏と言語を奪い取っているのである。実現出来なかった皇民化政策・共栄圏完成の姿がそこにあった。そこへたたみかけるような日本語のセリフ(仲村には朝鮮語を喋らせないのにチャン=ドンゴンには拷問のような日本語の嵐)、ドンゴンの口から言わせる「不令鮮人」の差別語、極めつけは仲村トオルの「俺はお前を一度も朝鮮人だなんて思ったことはないよ」のセリフ! そこまでやるか?

南北朝鮮を扱った韓国映画が北朝鮮へ放った悲痛なメッセージであったのと同じように、この映画は日本人に向けられて作られた、と俺は思う。もっともっと反日的であっておかしくないこの主題で、仲村など日本人俳優に対しても最大限のリスペクトがなされており、彼らの本気をビンビンに感じた。

それに対し日本の観客が、映画がデフォルメしている所を揶揄するのは友好的でない。韓国という国としては本来中国以上に反日的な感情を持つ国家・国民である(南北分裂も日本のせいともいえるのだから)。 安重根の伊藤暗殺はそれ自体の可否(実効性)以上に、その後の抵抗運動の昂揚に寄与したことは事実だろう。朝鮮では安は抗日戦争一番の英雄である。その事はこの映画を語る前に押さえておかねばならないポイントである。(ついでながら、西郷(仲村)の自宅がデカすぎるのはちょっと何だが、彼が自宅で和服なのは充分ありえる。彼らは大日本帝国朝鮮総督府移民局の警官なのだ。「我々の日本」とは政治体制も文化も相当違う)

ただ「もう一つの歴史」に生きる彼らにとって何が「正しい歴史」なのか、というと微妙な問題だと思う。伊藤暗殺を完遂させれば「正しく」なるのか? 日本人も宣戦布告を真珠湾攻撃前に正式にルーズベルトに届けたいぞ。いや、攻撃をやめさせたいぞ。朝鮮半島は分裂していいのか? …でしょ? 過去は過去で仕方なし(免罪という意味ではなく)、そのお蔭で今日日本は民主国家なり。これからの歴史に後悔しないようにしたい。

前半の作りが見事なだけに、後半の不逞鮮人(映画では「不令鮮人」)の壊滅からタイムトラベルまでは如何にもスタミナ切れで、勿体ないことこの上ない(まるで漫画「AKIRA」のようだ)。予算があればSF/政治ミステリー色を倍加してTVシリーズにしてもいいとさえ思う。

(評価:★4)

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