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[コメント] 農園の寵児(1938/米)

シャーリー・テンプル主演のミュージカルコメディ。テンプルは10歳頃。ラジオ歌番組というショービズ界を舞台にする。本作のテンプルの相手役は、ランドルフ・スコットだ。
ゑぎ

 スコットは広告代理店の現場責任者という感じの役柄で、シリアル会社提供のラジオ番組を新たに立ち上げようとしており、番組で使う少女歌手を探す(オーディションする)場面から始まる。テンプルはウィリアム・デマレストと共に登場する。デマレストは彼女の養父(義父)でマネージャー。実母は他界しており、実父については話題に出てこない。デマレストは実母の再婚相手ということだろう。オーディションに落とされたと思った(実は勘違いした)彼は、テンプルを見放して、彼女の伯母−ヘレン・ウェストリーのいる農場へ押し付けてしまう。これが導入部。

 原題は「サニーブルック農園のレベッカ」というもので、邦題の固有名詞が分かる。テンプルの役名がレベッカだ。ちなみに、サニーブルックは地名でも人名でも無いと思われる(映画の中では何も解説されない)。調べると、原作では主人公が名付けた呼び名らしい。きっと「陽の当たる小川」が描かれているのだろうと推測する。また、本作は多分全てのシーンがスタジオセットで撮られたスタジオ映画だ。広大な農園が映る、といったショットは全くなく、農作業もほゞ描かれない。ベリー摘みをしようと云う場面もあるが、こゝもテンプルが使用人のビル・ロビンソンとタップダンスをするミュージカルシーンになる。

 さて、サニーブルック農園の隣家がスコットの実家だったというスモールワールド攻撃から、テンプルがスコットの目に留まり、伯母さんの反対などの紆余曲折を経てラジオ番組へ出演、そしてスターになる、というお定まりの展開となるが、本作の面白さは、複数人で分担されるコメディパートの挿入にあると思う。それは、上述のデマレスト、スコットの部下兼歌手−ジャック・ヘイリー、スコットの実家の管理人−スリム・サマーヴィル、デマレストの再婚相手−ルース・ジレットによって演じられる。デマレストとヘイリーにはとびっきり派手にコケる場面があり、サマーヴィルは突っ立っているだけでも可笑しい。ジレットのガラの悪い女傑の造型も絶品だ。さらに、スコットが井戸に落っこちる場面のアクションも素晴らしい。このようなコメディパートを違和感なく嫌味なく挿入し、笑いを取るところがベテラン監督、アラン・ドワンの演出手腕だと思う。

 また、本作のテンプルには「大きくなったら結婚して」とスコットに云う場面もあるのだが、スコットの恋愛対象はテンプルの従姉(伯母さんの娘)−グロリア・スチュアートだ。この恋愛譚の部分でも、これも定石だが、以前からスコットのことが好きな歌手−フィリス・ブルックスを登場させ、加えてスコットの部下のジャック・ヘイリーはブルックスのことが好き、という関係をプラスして、ドラマを豊かにする。

 尚、テンプルの歌唱シーンは今見るとお世辞にも上手とは云えないが(もちろんメッチャ可愛らしいが)、ダンスシーンはいい(歌唱以上に可愛いと思う)。大団円は、ラジオ番組の収録場面というよりは、劇場舞台のような装置を背景にしたミュージカルシーンとなり、なぜか農場の使用人だったビル・ロビンソンもきちんと衣装を着て登場し、2人でタップダンスをする見せ場となる。これを、フルショットに近い固定のロングショットで、ずっとカットを割らずに見せ切る。つまり、小さなテンプルが長いタップダンスを見事にこなしていることが伝わる演出で、この部分は、本作がアメリカ映画協会の「最高のミュージカル映画」にノミネートされただけのことはあると思わせる。

(評価:★3)

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