コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] キートンのハード・ラック(1921/米)

この頃のバスター・キートンの中では、かなり、とっ散らかっている感のある作品だ。キートンだけでなく、2巻物のコメディにはよくあるパターンかも知れないが、
ゑぎ

 主人公の行動目的や、それによって引き起される状況が、加速度的に変化していくといったことでナンセンスコメディを形成するパターン。これを、やり過ぎの感がある。こゝでのキートンは、自殺志願者として登場し、鉄道、ピアノの下敷き、首括り、バイク、服毒などと、いろいろ試みてもなかなか死ねないギャグとアクションを繰り出すのが序盤。レストランで博物館のメンバーから科学的狩猟なるものを頼まれて、釣りのシーンになってからは、自殺願望はどっかに行ってしまい、乗馬とプールと悪漢−ジョー・ロバーツからヒロイン−ヴァージニア・フォックスを救出するプロットが荒っぽく繋がれていく。もちろん、小ネタとしては良いアイデアの場面が連続して、見飽きるなんてことはないけれど、驚愕のラスト、特に、高い飛び込み台からのダイブは自殺願望に戻ったのだと思うが、このダイブの高低の見せ方と、さらなるエピローグのぶっ飛んだ造型がなければ、本作の評価は低いものになるだろう。

 ということで、ラストの造型が突出し過ぎているとも云えると思うが、私が書き留めておきたいのは、もう少し普通のシーンの中での、次の2つのカット繋ぎだ。一つ目は序盤で数々の自殺行為に失敗をしたキートンが、レストランの大きな窓を見るシーン(ちなみに、この窓とその奥の料理人たちが映っている画面はファーストカットでも印象的だった)。唐突にウェイターが戸棚から「毒」と書かれた瓶を取り出して飲み、また戸棚に返すというバストショットが繋がれるのだが、これって今の私の感覚だと、キートンのミタメショットと受け取るのが映画文法だと思う。しかし、ミタメではなく、クロスカッティングだったことがすぐに分かり、ちょっと驚いていしまった。もう一つが、後半のヒロイン−フォックスを襲う悪漢−ロバーツの場面における、ロバーツとキートンがぶつかり、キートンが尻もちをついた際の2人の切り返しだ。こゝでは、まず水平位置でのロバーツのウエストショットが来て、次に完全にロバーツの視線を表現した、キートンの俯瞰のバストショットが繋がれるのだ。本作の中で、切り返しはこゝだけだと思うし、もしかしたら、キートンへ最も寄った画面がこのショットかも知れない。さらに、キートンが全く驚いたり慌てたりせずに、キョトンとしている、というのが誰も真似のできない独自性だろう。ストーンフェイスのナンセンスさが最も発揮された例だと思う。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。