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[コメント] 落穂拾い(2000/仏)

拾い集めた人生たち
煽尼采

収穫作業が済んだ後、畑に落ちた稲穂を拾って持って帰る“落穂拾い”。今では、商品としての規格から外れた農作物を、収入の無い人たちが拾いあげて日々の糧にする、という形で行なわれている。その様子を追ったドキュメント。

事実をただ並べるだけではなくて、「モノを拾う」という行為そのものの意味も、ちょっと考えてみよう、という視点がスパイスとして加えられている。そして、映像を撮るということもまた‘拾う’という行為の一つなのではないか、と言うヴァルダ。こんな社会派ドキュメンタリー作品でも、いつものフェミニンな感覚は忘れない彼女は、いかにもフランス的な、可愛いおばあさん、という印象。自分の皺だらけの手をカメラ越しに見つめ、「老いは友だち」と呟く場面では、人生の秋を迎えた事の哀愁と共に、‘落穂’としての自分を、自らの手で拾い上げようとする、彼女の気概も感じ取れる。続編である『落穂拾い・二年後』でも、この場面について言及されていて、単なるドキュメンタリーではない「作品」としての性格を、最も表している場面だと言える。

ところでこの映画の中に、精神分析家で、ワイン用の葡萄畑も持っているジャン・ラプランシュ氏が登場してますけど、この人って、ポンタリスと共著で≪精神分析用語辞典≫を書いた、あのジャン・ラプランシュ氏?と思っていたら『二年後』で、やっぱりそうだという事が判明。ヴァルダ監督自身も、この時は知らないで撮ってたらしい。奥さんが「主人を理解する為に、ラカンに分析を受けた事も有るわ」と、笑っていたのが愉快。

因みに続編の『二年後』では、観客から監督の元に送られてきた、数々の美しい手紙や贈り物が登場。ハート型のジャガイモも再登場し、ヴァルダの手を思わせる皺を刻んだ姿を見せている。フランスの観客のリアクションは、とても美的生活感が溢れているし、二年という時間の経過が刻む変化にも、滋味を感じさせられる。今のところDVDも出ていなくて、WOWOWの放送くらいでしか観られないのが残念。

(評価:★4)

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