[コメント] 仮面の米国(1932/米)
故郷の駅。出迎えは、母親と兄、出征前に勤めていた工場の経営者と幼馴染みの女性アリス。アリスとムニとのやりとりの演技演出が目を引く。ムニの自然な表情は、彼の独創性かと思わせるのだが、アリスがこのシーンしか出てこないのが、良くないところ(あるいは、思わせぶりなところ)。
ムニは兄と母に説得されて、とりあえず工場に勤めるが、窓から見える橋梁の建設現場が気になる。発破の音。音の演出。結局、家を出て、ボストン、ニューオーリンズ等々、地図をバックに船や汽車で移動を表現。しかし、どこへ行っても、すぐにクビになる。挙句、木賃宿で知り合った男−プレストン・フォスターに騙されて、ダイナー強盗の共犯者になってしまう。
裁判。判事はバートン・チャーチルだ。彼の木槌のショットからジョージア州刑務所で足枷を打つ金床と金槌のショットへマッチカットするカッティングには驚かされた。足枷と鎖については、本作の原題でも表現されているぐらいだから執拗な描写だ。使役は、ハンマーで岩を砕く場面と、鉄道のレールを撤去する場面。黒人の囚人が、正確にハンマーを打つ。ムニは、この黒人に足枷を打たせる。これが痛そう。足枷の輪が広がったのか。過日、使役中にトイレを申し出て、藪で足枷を外し、逃走する。警察犬の追跡をかわすために、川の中に潜って水遁の術のように隠れる場面が印象に残る。
ムニはシカゴに出て、建設会社に日給9ドルで雇われる。下宿の女主人マリー−グレンダ・ファレルがいつの間にか情人になっている。これが悪女で、ムニの兄からの手紙を読んで脱獄囚であることを知り、ムニを脅して関係を続けるのだ。一方、ムニはどんどん出世して重役になる。その経過を給与明細の役職名と給与額の変化で見せるが、これもどうか。良いリズムを作ると同時に、この頻出は、手抜きにも思える。その他、カレンダーや新聞紙面がよく活用される映画でもある。マリーはムニが稼いだ金で贅沢な暮らしをしており、浮気相手から電話がかかってきたりするが、ムニは別れられない。そんな時、ムニはパーティでヘレン−ヘレン・ヴィンソンと知り合う。浜辺へのドライブ。
そして、マリーが警察に連絡したのだろう、オフィスに刑事が来る。これで、また足枷と鎖の生活に逆戻りかと思うが、しかし、シカゴのあるイリノイ州は、ムニの事業家としての貢献を考慮し、ジョージア州に簡単には引き渡さないのだ。これは面白いところ。事実は小説より奇なりか。この後、9カ月後に恩赦を出すという条件が提示されて、ムニは元いた刑務所に戻るのかどうか、ということになる。
さて、終盤はなかなかのアクションシーンも盛り込まれて、最終的にゾッとするようなエンディングをむかえる映画だが、全体として刑務所内のシーンのシビアな描写はいいが、逃亡中に関しては省略され過ぎていたり、上手く行き過ぎると思ってしまうところがある。そういう意味で少々甘いプロット構成だと感じた。また、カッティングには良いところがあるが、ショットレベルで驚かされる、興奮させられる画面がほとんど無い。刺激を欠いた画面造型だとも思う。
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