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[コメント] 偉大な生涯の物語(1965/米)

3時間9分の短縮バージョンを見る。初公開版は4時間20分で、1時間以上カットされているのだが、それでも鈍重に感じられる。それは予想通りなのだけれど、予想を遥かに超えていたのは、全編に亘るロングショットの絵画的な美しさだ。
ゑぎ

 もう目の覚めるような素晴らしい造型のロングショットばかりなのだ。画面の美しさを楽しむという志向の映画ファンであれば、新約聖書の世界のことを全く知らない人でも、とても楽しめる作品になっていると私は思う。

 また、見終わってロケ地がどこか調べると、全部、米国内のようで、モニュメント・バレーやデス・バレーといった西部劇でおなじみの場所みたいだが、見ている最中は、モニュメントバレーかも、とは疑いながらも、いや聖地パレスチナの大地だろうと思い直すという風に騙され続けた。これは峡谷や砂漠といった自然の風景に対して、大掛かりに美術を施しているとしか思えないレベルで、西部劇みたいな風景には見せないよう特殊効果含めて工夫したのだろう。その労力は計り知れない。

 あと、キリストが起こす数々の奇蹟に関して、ファンタジックに描写しないという演出で統一している点は強調しておきたい。つまり、奇蹟に見せない演出だ。例えば、歩けない青年−サル・ミネオが歩けるようになる場面ではイエス−マックス・フォン・シドーは「あなたの信仰心のなせるわざだ」と云う。群衆の中のシェリー・ウィンタースは「病気が治った」と一人叫ぶだけで、イエスが直接何かをしたような描写は全くない。それは盲目の老アラム−エド・ウィンの目が見えるようになるクダリについても同様だ。奇蹟は、それを信じ込んだ人が流布しただけみたいな描き方なのだ。本作のイエスは超人ではなく、非常に人間的に描かれている。これをシドーがその佇まいと表情でもって、見事に表現していると云えるだろう。

 さて、オリジナル版から1時間以上短縮されているということで、豪華なキャスト陣の出番もいくぶんかカットされ、判別しづらくなっているということが起っているように思う。私基準で馴染み深い俳優たちについて備忘も兼ねて記載しておきたい。

 まず、最初のヘロデ王はクロード・レインズだが、その息子(次の王)−ホセ・ファーラーが、イエスに対する全編に亘る悪役だ。彼に三賢者についての調査を命じられる部下はロドルフォ・アコスタ。キリスト生誕時16歳のはずの聖マリア役はドロシー・マクガイアが演じており、撮影時50歳近いが、とても若々しく見えたので驚いた。このシーンにはヨセフもいて若きロバート・ロジアが演じているようだが、判別は難しい。また、序盤は聖ヨハネのチャールトン・ヘストンが大暴れする。

 中盤から目立つ敵役の中には、ユダヤの司教でカヤパ(大司教)−マーティン・ランドーとその部下ソラク−ヴィクター・ブオノがいる。あるいは、ピラト(ローマ総督)のテリー・サヴァラスも中盤から終盤にかけて最重要人物になる。ピラトの妻役だと思うが、数シーンで一緒にいる女性−アンジェラ・ランズベリーも、ほとんど顔が映らない。ピラトの部下にはマイケル・アンサラがいる。

 中盤にイエスと関わる人物としては、ベタニアのラザロをマイケル・トレン。その姉(姉妹)でマルタ−アイナ・バリンとマリア−ジャネット・マーゴリン。マグダラのマリアはジョアンナ・ダナム。ラザロの蘇生などの奇蹟を信じてイエスを信奉するようになる男でヴァン・ヘフリン

 使徒たちではロバート・ブレイク−シモンやロディ・マクドウォール−マタイなんかが有名どころだがほとんど目立たず、当然かも知れないが、ユダ役のデヴィッド・マッカラムだけ出番が多い。

 そしてクライマックスであるゴルゴダの丘まわりのシーンになって、リチャード・コンテ−イエスの代わりに釈放される男バラバ、キャロル・ベイカー−十字架を背負って歩くイエスの顔を拭く女性、シドニー・ポワチエ−十字架を一緒に背負って歩く男性、とスター俳優が連打され、ジョン・ウェイン−ローマ軍の兵士(隊長)もまるでモブのようにそっけなく登場する。オリジナル版のウェイン登場ショットはもしかしたら、もっとタメのある演出がされていたのかも知れないと思いながら見た。

 イエスの復活に関してもまるでファンタジックでない見せ方だが、この場面で開いた墓所(聖廟)の中にいる男性が、パット・ブーンだ。役名は天使となっているが、まるで天使らしくない普通の人間に見える演出だ。あと、書くのを最後に取っておいたが、序盤からイエスと対峙し、ユダの場面にも度々登場する隠者(サタン)の役でドナルド・プレザンスがおり、この人の役割が最もファンタジックなものかも知れない。プレザンスがサタンを演じているというのがいい。

(評価:★3)

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