[コメント] 憂愁平野(1963/日)
このオープニング、窓外の赤い花や思わせぶりな照明が後になって考えると全然機能していないと思う。軽井沢のゴルフ場。山本の夫は森繁久彌だ。キャディはチョイ役の樫山文枝、ワンシーンのみの出番。森繁は雷雨を避け、ホテルに帰る。翌朝だろうか、林の中で新珠三千代が登場するのだが、霧が出ていて、まるで幻影のような画面なので、一瞬、森繁の夢かと思った。新珠は、森繁の親友の妹。事前に会う約束をしていたワケではなく、以前にも軽井沢で偶然再会したことがあったので、今回もお互いに会えると思っていたと云う(お互いに会いたかったということだ)。
こゝから、森繁と新珠の関係の深化と山本と新珠の対決というトライアングルに加えて、新珠の従兄で彫刻家の仲代達矢も加わった男女の関係が描かれるのだが、私の感覚で云うと、森繁の二枚目ぶりが中途半端に感じられるのが本作の一番上手くないところだと思う。例えば、本作の最も良いシーンとして、森繁と山本の夫婦喧嘩のシーンをあげる人は多いだろうと思うのだが、このシーンが傑出しているのは、やはり森繁らしい三枚目の造型ではないか。しかし、山本と森繁を階段の上と下に配置し、女中の久里千春をウロウロさせながら俯瞰仰角で見せる演出も見事なものだ。
あと、もう一つ良いシーンをあげるとすると、私は仲代のアトリエで酔っぱらった新珠が喋りまくる(森繁の子供を産みたいと云う)場面の長回し演出をあげたいが、序盤の山本と新珠が初めて顔を合わせる赤坂プリンスのラウンジのシーンも良い場面で、そのどちらか、ということになる。画鋲を見つけた時の新珠の反応と、画鋲の上に腰掛けた際の山本の反応。
結句、中盤までは面白いシーンも連続しており、見応えがあるが、終盤はかなり腰砕けに感じる。しかし、ラストの軽井沢での自動車2台を使った会話場面と未舗装道路の砂煙の演出は不思議なテイストで私は悪くないと思う。ちょっと、勅使河原宏みたいなシュールな画面造型だと感じた。しかし、これが、山本富士子の最後の映画出演(映画としての遺作)なのだ。まだ32歳頃。なんて勿体ないことか。
#備忘でその他の配役等を記述します。
・山本が軽井沢からの帰り道で知り合うカップルは長門裕之と大空真弓。軽井沢ホテルのボーイで若宮忠三郎。
・森繁の会社に新珠が訪問した際の受付係りは桜井浩子だ。一言科白あり。
・新珠の家は恵那市(岐阜県)の没落した旧家。大きな家だがボロ屋に見える。新珠の母親−浪花千栄子と見合い相手の中谷一郎。ワンシーンのみの登場。
・山本が長門と偶然再会する有楽座の前。『ハタリ!』のポスターが見える。長門のいきつけの飲み屋の店主は松村達雄。こゝに仲代がいる。世間は狭い。
・仲代の家(兼アトリエ)の婆やは小峰千代子。仲代が山本を連れて大きな銀杏の木を見に行く場面。調べると九品仏浄真寺。その後、山本は日比谷公園の欅を見に行く。
・山本のお墓詣りのシーン。乙羽信子が寺の奥さん役。ワンシーンのみの出演。宿屋の女中で賀原夏子。この人も、ほんのチョイ役。勿体ない。
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