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[コメント] ドリアン ドリアン(2000/仏=香港=中国)

中国と香港はどこへ向かっているのか
evergreen

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 東洋一のカジノの街・マカオを旅した時にたくさんの娼婦に出会った。カジノで有名な リスボア・ホテルで景気の良い客を見つけては自分を売り込む彼女達のエネルギッシュさに 圧倒された。暇つぶしに彼女らと話してみたが、皆四川省や湖南省などの内陸部から出てきた 子で観光ビザでの入出国を繰り返し、体を張って金を稼いでいるのだそうだ。  中国では人身売買が結構あるらしく、貧しい農村部から口減らしに売春宿に売られていく子も多いらしい。一人っ子政策の影響で、跡取の男の子では無く 女の子が生れた場合、中絶したり、戸籍の無い子として生きていく女の子も多いらしい。  少なくとも私が話した数人は自分の意思でマカオへ来ていた。故郷に家を建てて 両親に楽をさせてあげたいと屈託無く話すその眼は、この作品の主人公と同じく ハングリーな野心に満ちていた。ただ、その瞳の奥には今を雌伏の時として割り切り 屈辱を耐える影の部分があったようにも思える。面子を重視し、プライドが高い中国人にとってみれば その心の闇はブランド欲しさに援助交際する日本の女子高生とは比べ物にならないくらい深いだろう。  作中、主人公に憧れた少女が、南方へと旅立つシーンが有る。いくらバブルの中国でも身寄りの無いよそ者に そう簡単に職が見つかるわけが無い。ここでは少女が主人公と同じく、近い将来「鶏」(中国での娼婦の俗称)になる事が暗示されているように思えるが、このシーンでの無垢で希望に満ちた少女の表情と、リスボア・ホテルの 彼女達の顔がラップして心を動かされた。

 部分部分で冗長なシーンがあるものの、香港パートと大陸パートでがらりと変わる 主人公の雰囲気が目を引いた。特に香港パートで、主人公がメシをかっ食らい(46時中食っている。香港の人 の波を泳ぐには旺盛なエネルギーが必要だ)、客をバンバン取り、観光もせず、寸暇を惜しみエネルギッシュに働くシーンはテンポも良く、 痛快だった。あの主人公のエネルギッシュさはまさに、香港の富を貪欲体内にとり込み、先進国目指して驀進する大陸そのものだ。

 この作品では主人公や知り合った少女の家族の行動を通して香港と大陸の関係を浮き彫りにしている。 かつて中国東北の瀋陽市出身のシンガーソングライターの艾敬(アイ・ジン)は「我的1997(私の1997年)」で「彼は瀋陽に来れるのに私は香港へ行けない」「1997年、早く来て、八百伴(ヤオハンデパート)ってどんなところ?私も香港へ行けるわ!」と 歌い、日本でもヒットしたが、1997年を過ぎた今も大陸の中国人が香港へ入るには許可が必要であるという。 私のような外国人が気楽に行けるのに、一般の中国人には自分の国であるにもかかわらず自由に訪問できない富の集積地、憧れの街・香港。  ドリアンのように強烈な個性と毒気で人を魅了する街。その香港を飲み込もうとしている大陸。  作品の後半で、富を得て故郷に戻った主人公がふと、自分の存在を見つめ直すシーンがある。中国映画『麻花売りの女』でも 似たようなシーンが有った。バブルに沸き、坂の上の雲を目指し加速を続ける中国も、将来ふと立ち止まって、自己を見つめなおす時が来るのだろうか。  中国と香港はこのまま加速を続けてどこへ向かっていくのか?いろいろと考えさせられる映画でした。

(評価:★3)

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