コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 回転(1961/英)

ホラー映画もこっち方面で進歩してくれれば良かったのに。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 この作品の場合はホラーと言うよりも文学作品の映画化と言うべきだろう。制作側の意図は純粋に文学作品を映画にしようと言うものだったのだろうと思うのだが、むしろそれが怖さを際だたせたという不思議な作品でもある。

 演出もきっちりしてるし、なにより主演のデボラ・カーが見事にキャラ立ってる。「これぞ英国婦人!」と言った存在感を存分に見せつけ、超常現象を信じない頑なな存在が、徐々に今ある事態を認識していく過程を見事に演じきっていた。

 ホラー映画で怖がらせる演出は多々あるが、むしろそういった演出がまだ未発達だった時代だからこそ、一般人のキャラを際だたせ、その心の動きに焦点を当てた作りは見事と言うしかないだろう。この時代だからこそ作れた、この時代でしか作れなかった物語に他ならない。

 ここに登場する幽霊は、怖がらせようと言う意図はあまりなく、ただぬぼーっとそこに立ってるだけの存在なのだが、演出の妙でこれが相当に不気味な存在となっており、はっきり言ってかなり怖い。たぶんどこかで書いたが、ホラー作品の怖さは、女性を主人公において、その恐怖をまざまざと見せつけることなのだから、その意味で本作のねらいは見事にはまっていた。女性側に恐怖を巻き起こさせれば、お化けの存在はそれだけで立ったものになるのだ。

 モノクロームで、構図がきっちりと取られたカメラアングルも上手い。特に前半は陰影がはっきりメリハリ付けられてる分、今観ている光景の異常さと正常さの対比がつけられ、後半になるに従ってそれが徐々にあやふやになっていくので、どんどん不安感が増していく描写が際だつ。ホラーというのは何もショック描写や驚かせるのが能ではない。むしろこういったじわじわ来るような作品にこそ、作り手側の手腕が求められるものだ。

 それらが上手くはまっていて、本作は一般的に文芸作品としても、古典ホラーとしても心地良い作品に仕上げられてる。

 ただ、本作はヨーロッパでは絶賛されたものの、アメリカでは全く受けなかったと言うのが、以降の映画界のホラー作品の扱いを暗示してる感はある。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)氷野晴郎[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。