[コメント] 孫悟空(前篇・後篇)(1940/日)
予想をはるかに超えた豪華さにびっくり。
「草津節」に「星に願いを」に「乾杯の歌」にと、とにかく枚挙にいとまがない雑多な音楽(と、すべてを歌いこなすエノケンたち)に大感動。ダンスシーンにも大興奮。タップにバレエにアラビア舞踊にとこれまた音楽と同様たいへんバラエティに富んでいて、各シーンだけでも抜群のエンターテイメントとして成功している。沙悟浄役の人は歌が苦手らしく彼のシーンだけはいつも「歌なし」もしくは「申しわけ程度のみ」だったのがやや残念だが、渡辺はま子に李香蘭に汪洋に!と、これまた素晴らしいキャストがおのおのの見せ場でそれを易々とカバーしてくれている。個人的には「悟空(エノケン)が化けたことになっている」時の大胆な演技も含め、動く服部富子を見られたのが何よりも嬉しい。今までは歌声しか知らなかったが、なんと魅力的な娘さんなのだろうと激萌え。第二部最後におけるでこちゃんの歌声(と、最高に可愛らしい笑顔)にも萌えまくりだし、こまっしゃくれた中村メイ子の子役演技も、イヤミなどころか漫画そのものでひじょーに愛らしく映る。
変な大王との変身合戦のシーンも、エノケンファンには垂涎だ。悟空役のエノケンは当然かな(まるでジム・キャリーの『グリンチ』のように、とまでは言わないが)ほとんど特殊メイクでの登場となるので、パッと衣装が変わるだけではなく「エノケンとしての顔を判別しやすくなる」ということにおいても、ここはかなりの高ポイントだったりする。桃太郎なんて、似合いすぎてどうしましょう、といった感じだ。
金角銀角のSFな砦も、そのセットを見ているだけでワクワクしてくる。巨大なコンピュータや謎の光線を使いこなす金角銀角だなんて、もうその設定だけでボルテージが上昇してくる。エノケン映画ではおなじみの中村是好&如月寛多のふたりが満を持してここでようやく登場、というのもまた洒落た演出だ。部下の造形なども、(ペンクロフさんも指摘されているが)『メトロポリス』を連想させられ、思わずニヤニヤしてしまう。
場面によっては感嘆のためいきをつかざるえない見事な美術にも拍手喝采だが、大王のアジトでの機関銃掃射シーンにおける不快感のない、かつたのしい雰囲気の「凝った死の表現」や、船上で初めて沙悟浄と邂逅するシーンでの工夫を凝らした特撮などにもかなりびっくりさせられる。お伽の国での幻想的なシーンをはじめ、飛行シーンや変装シーンなど、この映画における特撮監督(円谷英二と奥野四郎)の大活躍は、話が話だけに大絶賛に値するのではないかと思う。これがあまりに不出来なつまらないものだったら、たぶんこの「原作をかなり離れたパロディ過多な話」は、簡単には受け入れがたいものとなっていたことだろう。
上記のこと以外でも、アイデアにあふれた衣装(『眠れる森の美女』の女官姿が実写化されてるだなんて!)やアップに頼らない撮影(群舞場面をきっちりと見せてくれるだけでも幸せ♪)などなど、これはまさに「当時の一流どころのスタッフ」の技術と才能がいかんなく発揮された、邦画史上に燦然と輝く傑作だと思う。トップに躍り出る前のエノケンと助監督時代の山本嘉次郎は音楽好きということで仲がよく、それもあってエノケンの主演映画を撮ると決まったときエノケンが山本を監督として指名しエノケン主演第一作『青春酔虎伝』は誕生したのだ、だからあれは(そこまで完成度は高くないが)れっきとしたミュージカルのつくりになっているのだ、という話を思い出すにつけ、とうとうその「ミュージカル映画をつくりたい」というふたりの夢がここまで立派に結実したのね、と(自分は当事者でもなんでもないのに)感慨深くなったりもする。
ただ、ではコメディとして笑えるのか、というとギャグはイマイチだったりもして(金角銀角基地の入口での、タモリによるデタラメ外国語を思わせるシーンはなかなかよかった)、そこは「エノケンの映画」としてけっこうつらかったりもするが。三蔵法師が「殺生戒をおかすな!」とやたらうるさかったりするのもあってアクションもちょっと弱いというか、やはり「毛を抜いてぶわーっと吹いて自己増殖させて暴れ回る」という例の有名なシーンをエノケンで見たかったよなぁ、なんてこともつい思ってしまうのはわがまま過ぎか。
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