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[コメント] 汚れた血(1986/仏)

2点にするには惜しいけど、語ってる割に曖昧模糊な映画。030531
しど

この作品に関して思うのは、「饒舌さに一生懸命で何を伝えるかという努力を怠っている」ということだろうか。若い監督の作品なので勢いがあるのは当然なのだが、その勢いが「語る言葉の多さ」だけに終始してる。もう、語りたくって語りたくって仕方無い衝動だけで映画を作っちゃったような感じ。映像も凝っている。いろんな試みもしている。もう、いろんなことを勢いにまかせて詰め込んでいる。しかし、「もうちょっと落ち着いてさ、ほら、考えを整理して話してみて?」なんていいたくなる。

問題は、終始いろんな要素が散りばめられているけど、要素がありすぎて却って何が重要なのかが非常にわかりにくいこと。話すことに一生懸命な自分にどんどん熱くなっちゃって、結局何がいいたいんだか自分でもわからなくなってるような。「僕はこんなこと考えてるんだけどさ・・・ところでさ・・・」が永遠続くような感じ。例えば、愛不在のセックスで感染する不思議な病気。例えば、醜悪に描かれるアメリカ女。例えば、計画前日の主人公の怪我。例えば、元の恋人の突然の救援。「ねえねえ、こんなアイデア面白くない?こういうのはどう?うーん、何か凄い作品になってきたぞー」とどんどん盛り上がってる深夜の飲み会みたいな饒舌さ。そして、そんな「熱い奴」に好意を抱くか否かは、見る側の姿勢次第。だって、本人は、「熱い自分」をただ投げ出して「どうだ!」っていってるだけなんだもん。

さて、この作品の中でもっとも饒舌に語られるのは「愛」にまつわる感情だろうか。中盤、主人公とジュリエット・ヒノシュの二人だけのシーンが30分近くある。ここのシーン展開が遅くてもどかしさを覚えつつ、ようやく次のシークエンスに移った時に思った。「ここって無い方がわかりやすいんじゃないの?」。主人公の設定って、寡黙だったから冗談で「お喋り」なんて呼ばれてたはずなんだけど、実際は終始語ってる。時には、腹話術を駆使して口を閉じてても語っちゃう。それを「アイロニー」なんていっちゃうのもいーけど、やっぱさ、「ちったぁ黙ってろ」なんて私は思う。「愛」についての「饒舌」なんて、単に「口説き文句」にすぎない。饒舌な口説き文句なんか嘘臭いものだと古来決まっているのだ(と思う)。そう思って見てみると、主人公って妙に「キザ」なんだよなぁ。だから、この映画全体も非常に「キザ」なんだ。キザの語る愛なんて、語られる相手には心地良いけど、端から見ている者にはしつこいだけなんだよなぁ。と、この辺りで、私は、この映画を「キザ」だと判断して突き放しちゃった。

ところで、フランス映画っていうと、ヌーベルバーグ(英語:ニューウェーブ)って動きが50年代にあった。簡単に書くと「作家性の尊重」。ウケ狙いだけのつまんない映画ばっかりだった当時、批評家が集まって、「批評ばっかりするんじゃなくて、俺らが面白いと思う映画作ろうぜ」、なんて感じで米国の低予算映画を参考にしながら、従来の映画を否定した「個人的な価値観」で映画を作り出したのが「ニューウェーブ」だったんだけど、この時は、予算が無かったんだよね。予算が無いから、「撮りたい対象」を必要最小限に絞って作ってしまって、却って「作家性」も浮き彫りになって凄いことになっちゃった。ヌーベルバーグの監督達はもともと批評家だから本来は饒舌なはずで、饒舌なまま映画を作ってたら散漫に終わってた可能性もあった(その後、そうなっちゃったけど)。このレオス・カラックスってのは、日本だと「ネオ・ヌーベルバーグ」なんつって、「ニューニューウェーブ」みたいな変なジャンルで括っちゃってたけど、この作品は、予算が豊富だったから対象を絞り込めずに散漫になってるし、ヌーベルバーグの悪い面、「作家性」を前面に押し出し過ぎて「観客のウケ」を見て見ぬふりしちゃったような作りにもなってる。「作家性の尊重」の罠は、恋愛のようなもので「見る側との相性」だけで価値も生まれたりする。好きな人はとことん好き。好きじゃない人はその評価に頭を悩ませる。盲目な愛に落ちちゃうカップルの悲劇みたいに、この作品に対する盲目的な「作家性の尊重」の悪影響は、破格の予算を使いながら大した映画にならなかった次回作の『ポンヌフの恋人』に出ちゃったんじゃないかと思う。「作家性の尊重」が我が侭と表裏一体だとして、その我が侭を評価しちゃったら、もう、誰も監督を止めることはできないし。

しかし、早熟な饒舌さってのは、それだけでも価値はあるはずである。そして、早熟だった人の多くが、その後、パッとしない人生を送ったりするのもよくあることだ。なんて、最近名前を聞かなくなったカラックスに対して思う。

(評価:★2)

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