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[コメント] ホワイト・ノイズ(2022/米)

ノイズが多すぎる。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「ノーベル文学賞獲るんじゃね?」と言われているドン・デリーロの原作をどこまで消化(昇華)しているのか未読なので分かりませんが、映画は物語の解釈の余地を狭くしてしまっている気がします。有り体に言えば、最後のドイツ人尼僧の台詞と最後のナレーションで、「この映画の言いたいことはこういうことだったんですよ」と全部説明してしまっている。

そんなことするくらいなら、映画冒頭で「この映画はこういうことを描きますよ」って先に言っちゃえばよかったのに。ウディ・アレンがよく使う手法です。先に犯人を明かしちゃう「刑事コロンボ」なんかの倒叙形式と同じ、あるいは「ヒッチコック劇場」のヒッチコックみたいに「人は恐怖から逃れようとする一方で恐怖に見入ってしまう」「恐怖は国家規模でも家庭規模でも日常的に起こりうる」なんてことを冒頭に伝えて、「さあ、日常と非日常の恐怖の波に右往左往する人の姿をとくとご覧あれ」という映画だったら楽しかった気がします。

シリアスなのかギャグなのか、笑っていいのか悪いのか、正直「ノレない」時間が長かったんですよ。内容ではなくて映画の方向性が分からなかった。「映画の方向性がわからない」と「面白くない」時間が長くなり、結果「面白くない」という感想になりかねない。この映画の欠点はそこだった気がするんだよな。私が『マリッジ・ストーリー』しか観ていないので、ノア・バームバックとの距離感がつかめなかったというのもありますけど。

舞台設定は70年代なのかな?80年代なのかな?ポール・トーマス・アンダーソン『リコリス・ピザ』(2021年)もそうでしたが、最近のアメリカ映画、いや日本映画もそうか、懐古趣味的なものがしばしば見られる気がします。これはどういう世相の反映なのでしょう? 『リコリス・ピザ』のオイルショックもこの映画の有害物質も「情勢不安」が背景にあるんでしょうけど。そういった意味では、私がこの映画を10年後に観ていたら「当時のコロナ禍の影響が色濃く反映されている」と読み解くでしょう。でも、今この映画を観ちゃった私は、10年後にはこれがどんな映画だったか、なんなら観たことさえ思い出せない気がします。それくらい何も刺さらなかったんだよなあ。申し訳ない。

アメリカ人って「陰謀論好き」じゃないですか。そのせいか、観ている最中は『アンダー・ザ・シルバーレイク』を思い出したんですが、今思い返すと、『マグノリア』とか『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』とかの系譜のような気がしてきました。人間の、というかアメリカ人・アメリカ社会の、病理にも似た「得体の知れない何か」を描いたすごく深い話のようにも思うんですよね。

でも、刺さらなかったんだよなあ。

(2022.12.11 アップリンク吉祥寺にて鑑賞)

(評価:★2)

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