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[コメント] 台北の朝、僕は恋をする(2009/台湾=米)

結構評判いいところにアレですが…
田邉 晴彦

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







一夜のハプニングを共に体験した男女の間に、特別なフィーリング(それは“恋”とも言えるし、もっと原初的な、名状しがたい“何か”でもある)が生成される過程を作品上のテーマに据えたロマンチックコメディ。古くは『或る夜の出来事』『ローマの休日』『恋人までの距離<ディスタンス>』といったクラシックの名作から、最近では阪神淡路大震災をテーマに扱った『その街のこども劇場版』が日本でも製作・公開されており、これらシチュエーションものの系譜にあたる作品。また、製作総指揮をつとめたヴィム・ヴェンダースが自身の監督作品でテーゼとして度々扱う“放浪”の要素も色濃く反映されており、主人公たちが夜の街をひたすらに彷徨う本作は、台北を舞台にしたロードムービーとも言える。

さて、シチュエーションものと勝手に名付けさせてもらったが、兎角、新旧国を問わず語られ尽くしたストラクチャのため、新作を製作するのであれば、当然、そこには監督の作家性を最大限に発揮したスパイスがほしくなる。どこまでフレッシュなシーン描写が可能か、どれだけユニークなストーリーテリングが出来るか、によって作品の面白さが決まってくる。

というわけで、まずは「フレッシュだ!」と感じた点を挙げてみたい。

これは何と言っても“夜の台北”というロケーションだろう。作中で主人公の恋人が去ってしまうパリと比較する向きもあるが、なるほど、確かに魅力的な街である。ロンドンほど気取りがなく、東京ほどのケレンミはない。NYほど猥雑ではないが、ブエノスアイレスほどエキサイティングでもない。どちらかと言えばのっぺりとした街並みである。しかしそこに、煌々と輝くネオンや屋台村の提灯が色どりを与え、台北独特の雰囲気を醸し出している。アジア特有の妖艶さと瑞々しさを見せつけられて、一度は訪れてみたい街のリストに追加した次第だ。

あとは…どちらかと言えば、残念な部分に目がいってしまったなぁ…

まず、主人公のキャラクターが弱い。弱すぎるよ。ボーっとしてるだけのボンクラで顔面の造作も中の下。映画全編を通して一度も「お!こいついいね!」ていう肉付けがないせいでしょ。だから、何であのかわいこちゃん(アンバー・クォ)が主人公に興味をもって最初接してくるのか、もうさっぱり判らない。

そんでこの主人公には乗り越えるべきさしたる葛藤も見当たらないわけ。恋人がパリにいっていることと、劇中で進行する事件が結局最後まで大してリンクしないから、起きる出来事すべてが「茶番」としか言いようのないドタバタコメディになっちゃってる。

演出も愚鈍。犯人たちから隠れるために、アンバー・クォに主人公のボンクラが覆いかぶさるシーンがあるんだ。「お!どうすんのかな?」と思ってにわかにアレをそそり立たせて観賞してたら…何もさせないわけ、この二人に。

違うだろ!ここは、キスしそうになるとか、女が男を突き飛ばすとかさ、何でもいいから、「お互いを異性として決定的に意識してしまった」瞬間の空気を映してくれよ!何やってんだよ監督さんよ!もうこれで童貞確定だよアンタ。

あとね、ラストのダンスシーン。古いよ〜、センスが。その直前に最高にかわいいアンバー・クォの横顔(本作の白眉!)をせっかくカメラが捉えてるのに、そこでかけられたマジックが完全に吹っ飛んだよ。

こういう必然性のない“サービスカット”を入れるなら、同年製作の『500日のサマー』の中盤でやったミュージカルシーンみたいに、主人公の心境を的確に描写するとか、とにかく文脈を汲んだ表現にした方が良かったのでは?

以上、おカネをとる映画としては及第点には遠い、と僕は思う。

(評価:★2)

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