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[コメント] スマイル 聖夜の奇跡(2007/日)

陣内が前作で見せた性根の優しさと突き抜けたポジティブさは、ジュブナイルでこそ真価を発揮するはずだという、それはもう確信のもとに劇場へ足を運んだのでしたが……
林田乃丞

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 あー残念。すごく。悲しい。

 まず、ホッケー選手の回想で始まった映画が本編になるとコーチ視点で進んでゆくというポカをやらかしてる時点で、この話が熱血先生の話なのか少年ホッケーチームの成長物語なのかが曖昧になる。

 そして、コーチが児童心理ナンチャラ学いう学問を専攻していたという設定のおかげで、彼が子供たちを「学問に基づいたテクニカルな方法」でコントロールしているのか、はたまたエモーショナルなパッションでもって扇動しているのかが解らない。そうして、ただ単に軽薄なキャラクターだけが上滑りする。

 美少女が不治の病だとか、養父母に心を開けない美少年だとか、母親に会いたいがためにテレビに出たがる男の子だとか、そういうありきたりなエピソードを挟み込むこと自体は別にいいし、演出のアイディアとしてもベタなりに美しいシーンはいくつかある。だが、そういうエピソードを背負った少年少女たちが誰ひとりとして、生きた人間として描かれてない。彼らの心の移り変わりがまるで表現されてない。単なる映画の段取りとして難病の女は死ぬし、美少年は養父母をお父さんお母さんと呼ぶし、男の子は母親と再会する。早い話が、まるで魂が入ってない。この映画が誰に「がんばれ」って言ってるのか全然わからない。何も伝わってこない。

 最後の試合の途中でアホみたいにタップ踊ってるコーチが「ヒザ痛え!」つって倒れこむとこも嫌だ。このへんから、完全にストーリーが子供から離れる。子供たちみんなががんばって試合やってるときに何を勝手に感傷に浸ってんだって。しかもそのヒザはすぐ治って今度は大声で歌いだして観客席やら審判やら巻き込んで大騒ぎして……最後の最後で、子供たちの晴れ舞台のはずのクライマックスをコーチ主導のミュージカル(?)で演出するなんて、もう信じられない。何よ、「聖夜の奇跡」ってそれかよ。ここで少女の手紙を聞かされて最も心動かされるべき人物はおまえじゃなくて、彼氏だった男の子だろうよ。あの男の子の話をしろよって。なぜか悪者にされてしまったライバルチームとの試合も、この意味不明なドンチャン騒ぎのおかげで霞む霞む。そんなこんなで結局おいしいとこはコーチが全部もってってしまう。あれ?誰の回想だっけ、これ?

 前作は陣内自身の青春を綴った物語だった。私はその物語に痛く心酔し、何度も何度も見直しては元気をいただいた。だが、前作今作から見える陣内孝則という人の作家性(なんてものがあるとすれば)は、「自分の青春はたいへん美しいが他人のことなんか知らん」という強烈なナルシシズムでしかないと思った。とてもさみしいが、そう思ってしまった。前作で亡きギタリストに向けた視線と今回子供たちに向けた視線では、明らかに熱量が違うんだ。自分で描いたキャラクターをかけがえのない友と同じように愛せないのなら、ドラマなんてつくらないほうがいい。

(評価:★2)

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