コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 五毒拳(1978/香港)

 『拳精』と同年に制作されたのかこれ! スター映画とチームワークの映画、チープさと豪華さ、明るさと暗さ、何もかもが違いすぎる。
にくじゃが

 あらゆる点で『拳精』と対を成すような気がする映画だけれども、どっちが好きかと聞かれたら、迷わず『五毒』と答えると思う。ごめんジャッキー。

 タイトルロールの出方からして好みの映画。もうこの時点でじめっとして暗くて陰惨な雰囲気が伝わってくる。この暗さが謎解き・残虐を盛り上げ、さらにアクションがうまく絡んで面白い。

 ただ、この映画における残酷さはチャン・ツェーのほかの映画、例えば『英雄十三傑』や『ブラッドブラザース 刺馬』の主人公達がたどるような観客の精神にぐっさりくるような痛々しさとは違う。見た目そのものが痛々しく残虐なのだ。(鉄の処女とか、濡れたハンカチとか、鼻ぐっさりとか)アメリカでカルト的な人気を誇る作品らしいが、それはこのわかりやすさにあるんじゃないかなあと思う。あの人達は『殺人拳』シリーズも好きらしいからな。

 この『五毒』における残虐さの方向転換について勝手に思いを巡らしてみる。ジミーさんやデビッド・チャンティ・ロンなどのスターが去ってしまったあとのチャン・ツェー映画、この『五毒』に出てくる俳優さん達はこの後もセットでチャン・ツェー映画に出てくるのだけれども、正直前述のジミーさん達に比べるとカリスマ性に(大いに)欠ける。しかもそのころ、新興のゴールデンハーヴェストはブルース・リーに次ぐ第二のスター、ジャッキー・チェンを叩き付けてきた! 焦るショウブラ! 観客を集めるためにはなんか売りはないか? 正直言って五毒チームには男前が一人しかいない! しかもなんか線が細くてしかも意地の悪そうな顔だ! じゃあどうしよう? 残酷シーンだ! というような流れがありそうだあ、と思う。

 “残酷さ”というものはまあ確かに衝撃的ではあるけれども、そのうちそれに慣れてしまうというような、一発芸・見せ物的な要素が強い。その危険を恐れず、見せ物に堕する事も厭わない制作陣のしたたかさ・いかがわしさ、残虐シーン目当てに観る観客の後ろめたさ(だってチャン・ツェーものだしさ)、それらがこの物語の持ついかがわしさ・暗さと絶妙な調和を成している。

 ジャッキーのコメディクンフーが大当たりをはじめるこの時代にあって、劉氏兄弟ものなど本格派を出し続けたショウ・ブラザーズ。劉氏兄弟にはコメディクンフーものも撮らせ(『続・少林寺三十六房』など)、一方この『五毒』のような陰惨な話も撮らせたショウ・ブラザーズ。うーん、懐が深いなあ。それともこの懐の深さを見せつけない限り、ゴールデン・ハーヴェストには対抗できないと思ったか。ジャッキーの驚異はそれほど大きかったのか。

 って書いてたけど、この時期のジャッキーはまだロー・ウェイプロだった。じゃあこの時期のハーヴェストのスターは移籍しちゃったマイケル・ホイたちになるのかしら。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。